初めての東京、一番楽しいところ
……東京にいれば、アタイはただの観光客だってことが分かったけども、東京に暮らすとすればもう……簡単なことではないんだろうな……。
スクーリングが終わったらすでにもう6時。
新宿オカダヤに寄れるか寄れないかギリギリの時間だが、コインロッカーに荷物を入れるお金ももったいなければ、そのままでかいカルトンとスーツケースぶらさげて行くのも迷惑かなと思ったが、勉強漬けだけの東京は悲しいので迷惑承知でオカダヤに寄る。
交差点にごったがえす人。
こんな人の量が初めてのアタイ。
自律神経ビンビンで歩く。
猫の電光掲示板とそれをスマホで撮る観光客。
ホストクラブのデコトラ。
「悪質なキャッチが……」とかいうアナウンス。
陰謀論がなんちゃら……の演説。
もちろんこの街で食事する勇気は無い。
人の少ない学校側の駅のスタバで晩御飯食べてくればよかった。
ポケモンのフレンドリーショップみてえな雰囲気のオカダヤ。
レースだけそそくさと買う。
布館でリバティの布をお土産に買った。
階段を降りていき、静かな広めの通路でぜえぜえ水を飲んでいたら警察官に「ここに荷物置かないでください」と怒られる。
じゃあどこで飲めと言うのだあんな人混みでと思いながら撤収する。
誰もが通り過ぎてゆく新宿駅。
「迷宮」というあだ名に正しい地下道。
歩いても歩いても見つからないバス停。
スカートの短い観光客。
ホスト風の男が下品な話をして、「へー」と聞き流す女。
「とりあえずどこかで何か食べてきなさい」とお母さんからのLINE。
新宿アルタのスタバで人の見た目についてとやかく言うバンギャの女の子の二人組。
彼女らはアタイさえ知ってるような曲を歌ってるコピーバンドの推し?の話をする。
その二人とコピーバンドの俗物感に余計気分が下がってしまう。
見つからないバス停。
だんだん時間がやばくなってきた。
地下道にたむろする鳩。
なんとなく近くにいる音楽を大音量で流すおじいさんに話しかける。
おじいさんはそばにいた警察官に声をかけてくれた。
警察官方は、「この道をこう行けば35番ですので」と、おっしゃる。
とりあえず進む。信号がある。この信号を……渡るのか?それさえ怖い。
なんとなく、話しかけやすそうなおばあさん二人組に話しかける。
なんと、超偶然にも話しかけた人は秋田行きのバスに乗る人だった。
「信号を渡ればすぐ」
と言われ、信号を渡らなきゃいけなかったのかと驚く。
静かにバス停前へ佇むホームレス。
3日前の朝は初めての東京に興奮してて、いたことに気づかなかった。
喉が渇いて死にそうなことをおばあさん方に言う。
「あそこに自販機があるから急いで買ってきな」とおばあさん。
走ってなんとか買いに行く。
水は漏れなく売切。
麦茶が残っていたのでそれを買う。
おばあさんの娘さんが買ったというパン、おばあさん姉妹からのおすそ分け。
「このパンあまり好きじゃないのよね」
と、クランベリーパンに文句を垂れる妹さん。
バスに乗れた安心感で体が溶けてゆく。
窓から覗くと、やっぱり誰もが通り過ぎてゆく。
あっ、偶然見知らぬ男の子と目が合った。
しばらく見つめ合うも、すぐ通り過ぎてゆく。
東京脱出。
35番バス停はビックカメラの横。それ以上でもそれ以下でもない。覚えておき!
2回目の東京の帰りは、新宿駅ではなく東京駅乗りだった。東京駅高速バス乗り場は、電車を降りてズイズイズイーっとまっすぐ行った所にあった。あまりにも長くて、電車かなんかが通ってないのか気になった。
賑やかな一番街。
行列がすごいちいかわらんど。
「TOKYO」とかいてある柴犬のスノードーム付きマグカップ。
8時には店街が閉まるので、そそくさと出て行く。
マクドナルドやターミナルの中に座るところはあるけども、こっからもう3時間ずっと待たなきゃいけない。
八重洲高速バス乗り場。
「おかげさまで元気にやらせてもらってます」
「ええ、それは良かったです。今までこういった仕事をしたことはありましたか?」
「土木を少しやったことはありますが、長続きしませんでした」
「そうだったんですね。仕事中も水分補給はしっかりとしてください、健康には第一にお願いします」
標準語のおじいちゃんと人事の人が話す。
マクドナルドで「大丈夫、がんばろう」と言い合う外国人の労働者。
「まだ間に合う、ゆっくり走れ」と最終バスのドアで電話をする男の子。
「なんちゃらバスはうん時に出発します」というアナウンスが延々と流れる。
テレビに映る詐欺防止の興味深い広告。
こうしていく間に通り過ぎてゆく最終バスを眺める。
考えているのはあなたのこととか。
お母さんはどうしているか。
公園で弁当を食べてた時におしゃべりした出稼ぎのじっちゃんのこと。
前世の自分はどんな人だったのだろうか。
アタイが学校にちゃんと行ってたらどんな道だったのか。
普通に幼馴染と同じ学校に行って、うだうだと文句を垂れながら勉強して、今頃は東京の農大に行って、バイトに勤しんでいただろうか。いや、そうでもないだろうか。
ふと、バスで働く荷物入れの男の子の話を盗み聞きする。自分より年下かもしれないその人は、バイトを掛け持ちしながらも朗らかに毎日を生きていた。
盗み聞きしたのは、貯金がわずかしかない事だったり、遠くへ出かけたことだったり。
すると何故だろう、親に庇護されてて、実家暮らしで貯金もそれなりにできる自分。でも彼の方がずっと幸せというか、豊かに見える。
そうこうしているうちにやっとバスが着く。
あの荷物入れの男の子に「秋田駅?セリオン?」と聞かれる。
「秋田駅です、ありがとう」
夜行バスに乗っている時間が好きじゃダメかな。
それよりも待ってる時間がより好きじゃダメかな。
うんうん。
カーテンをそっと開け、通り過ぎてく東京…
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