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die Bekanntschaft

指示された通りフランスにほど近い駅にミュンヘンから乗り継いでシュヴァルツヴァルド(黒い森)へ向かう。

おもしろいもので、北に向かえば北らしい、南に向かえば南らしい風景に変わっていくように、黒い森の名にふさわしい風景に変わっていく。

前回書いたように、顔は知らないがよく知っている人に会う。
駅に着いてもお互いの顔を知らない。果たしてどのようなファーストコンタクトとなるのだろうか?

駅からも見えるそそり立つ岩肌と、どことなく色味が濃い森が、ここがシュヴァルツヴァルドだと教えている様だった。

扉が開きヒヤッとした空気を感じながら駅に降り立つ。
まばらに降りた乗客たちは列車の進行方向にパラパラと歩いていく。

その姿をしばらく見つめるも何も起こらない。静かな時が過ぎていく。

間違えたか?一瞬不安に思ったその時

『タケさ~ん!』

静寂の中、響きわたる日本語の先をみると小さな女の子が駆けてきた。
そのあとに、さらに小さな男の子。
ふたりとも私の名を叫んで走ってくる。
可愛い子供たちは、礼儀正しく挨拶をすると矢継ぎ早に色んな質問を投げかけてくる。これほど人懐っこい子供はいるのか?というほどフレンドリーで一瞬感じた不安など跡形もなく消え去っていた。



子供たちに続いて細身のドイツ人男性が現われる。
外見は日本が大好きな欧米人という優しい顔つきと言えばよいだろうか。日本好きを公言するような欧米人は眼差しが優しい気がするのは私だけでは無いはずだ。

彼の名はガブリエル、通称ガブ。

『はじめまして。というにはね』
お互いに苦笑い。

顔は知らないがよく知っている人にようやく会えたのだった。

彼との出会いは5年ほど前だろうか。
AkitaHam.のネットショップ経由で問い合わせが来たのだ。
綺麗な日本語で書かれた文章にドイツ人だとは微塵も思わなかったのだが、ボックヴルストというソーセージを探している、という内容だった。

ボックヴルストは燻製ソーセージの大型タイプだ。
製造の現場では、ヴィーナーというスタンダードな燻製ソーセージの生地を少し太めの腸に詰める。
厳密にいえばレシピは多少違うのだが、現場ではこのように製造する。カリーヴルストのソーセージはこの生地を更に太い豚腸に詰めるのだ。
※補足
カリーヴルストの発祥地であるベルリン。本場のスタイルは皮なし白ソーセージにカレーソースをかける。それ以外の地域では上に述べた燻製ソーセージにケチャップ、カレー粉をかけるのが一般的。

ボックヴルストは通常販売していないが、イベント用に作っているので販売可能ですよと伝え直ぐに発注してきてくれた。

程なくして
『パーフェクト』
と言う言葉と共に感激のメールを頂き交流が始まった。
結局、知り合って数カ月でドイツに戻ってしまうのだが、1年に一回のペースで

『いつドイツにくるんだ?家に遊びにおいでよ。』
と誘ってくれていたのだ。

実に感慨深い。
車に乗り込み、子供たちがワーキャー話しかけて来る中、ひとり頭の先までどっぷり『縁』という感慨深いものにひたっていた。


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