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映画『室井慎次 敗れざる者』のリアルな秋田観
先日、映画『室井慎次 破れざる者』を見てきました!!
なかなか面白かったです。
わたしが面白いと感じた主な理由は、この映画がかなり立ち入った秋田像、リアルな秋田を描いているからです。
何というか、「秋田=終わってるところ」感を全然隠そうとしないんですね。
そこが面白いと思いました。
リアルな秋田と言えば、方言が完璧で素晴らしかったです。
「もう、来なーッ!!」
「…なんぼでも。」
の言い方がもう、完全にネイティブでした👌
同じく秋田を舞台にした最近の映画『ルックバック』とは、その辺が全然違いましたね。
ここからはネタバレありで感想を書いていきますので、未鑑賞の方はお気をつけ下さい。
◯それぞれのリアルな秋田観
「こんなところまでやってきたんだ。成果をあげるまで帰れるか!」
警視庁の人間が秋田県警にやってきて言う言葉です。
そうですよねー
こんなところですよね。秋田はね…。
と思ってしまうこのセリフ。
もしかしたらこのセリフは、製作陣の本心なんじゃないでしょうか?
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012)からもう12年も経っています。
もう少し早い段階で、しかも秋田を舞台にしなくてよいのなら、映画の内容はきっと違ったものになっていたでしょう。
秋田を舞台にしたことによって、人間ドラマは際立っているのですが、『踊る大捜査線』らしさはだいぶ薄まってしまっています。
たぶんもっと都内に近いところで撮った方が『踊る』のスタッフはやりやすかったのでは。
「なんでこんなところでやらなきゃいけないんだ」という製作陣の心の声が聞こえてきそうです。
◯新城の言葉
室井さんが強制連行されて行くと、秋田市内の料亭(相葉詩織が仲居さん役で出てくる)で新城 賢太郎が待ち構えています。
「第二の室井」と呼ばれていた新城は、本来室井さんが座るはずだった秋田県警本部長の席を無理やりあてがわれてしまったようです。
「こんなところで終わるとは、思ってなかった」
酒を飲みながらポツリと漏らす言葉。
その言葉は本心に違いありません。
秋田は終わった人の行くところで、不本意な気持ちをどうしもようもなく持て余すところ。
少なくとも新城はそう捉えているようです。
では、定年を待たずして警察を辞め、自ら秋田に行くことを選んだ室井さんはどう思っているのか。
◯室井さんの秋田観
室井さんは基本的にあまりしゃべらないのですが、新城と自宅でお酒を飲む際にちょっとだけ長めにしゃべります。
「アイツとの約束を守れなかった。俺は、負け犬だ。偉くもなれず組織改革もできず…。逃げて…ここに来た。」
自らを「負け犬」と語る室井さん。
そんな室井さんを子どもたちが見ています。
ひとり親を殺されたタカ。
人殺しの親を持つリク。
シリーズきっての凶悪犯、日向真奈美が母親のアン。
彼らは望んでここにいるわけではなく、親代わりの室井さんを頼ってここにいるだけの状態です。
しかし「終わった」「逃げてきた」と過去形で語る大人とは違い、子どもたちには未来があります。
◯子どもたちにとっての秋田
高校2年生のタカにとって、目下の課題は卒業後の進路です。
「進学は無理そう。就職するとしたらどこに? 女友達は仙台に行くって言ってるけど…」
東北には「ローカルトラック」というものがあり、たいてい高校卒業前の東北民は地元に残るか、それとも仙台か東京圏に行くかの3択で悩みます。
この辺の悩みもリアル。
アンもタカと同じくらいの年齢設定ですが、まだ秋田に来たばかりでその辺の悩みには至っていなさそう。
というか、彼女が何を考えているかは今のところ誰にも分かりません。
リクは地域の人に「人殺しの子ども」と知られているので、劇中で触れられていませんが、もしかしたらそのことが原因で学校に行きたくないのかも。
子どもたちにとっては秋田というか、室井さんの存在自体が安心できるクッションの役割になっています。
◯この映画のテーマ
タイトルが『敗れざる者』となっているとおり、この映画のテーマは分かりやすい「勝者」を描くことではないのでしょう。
じゃあコレがテーマだ! とバシッと言えないのが難しいんですけれどね。
大人のほとんどにとっては「終わったところ」に逃げてきた室井慎次。
側から見ると敗者のように見えるけれど、しかし彼は決して敗れてはいないのだ、と言いたいのかもしれません。
もちろんこの「敗れざる」は、青島との約束にもかかっています。
室井さんは約束を守れはしなかったけれど、誠心誠意尽力しました。
室井慎次は約束を「破ってはいない」のです。
さて、ここからはわたしが個人的に名シーンだと思ったところと、「おいおい」とツッコミを入れたところを紹介したいと思います。
◯個人的名シーン
上空に警視庁のヘリが現れ、室井さんの自宅近くに停まるシーン。
スッと停まればいいだろうに、わざわざ一度湖面に機体を寄せて波紋をたたせ、その後湖の反対側にまわって着地するヘリ。
扉が開くや否や、「室井さあぁああーーん!!」と絶叫しながら緒方薫が駆けて来ます。
しかし湖のまわりを蛇行しながらやって来るので、なかなか室井さんの元に辿りつきません。
本当に、映画を通して室井さんがいろんな人に愛されているのが伝わります。
とくに若い男ほど「キスでもするんか」と思うくらい顔を近づけてくるので、室井さんの迷惑顔も見ものです。
唯一、おんぶしたリクくんが頬ずりしてくるところだけは、室井さんも嬉しそうでした。
◯個人的ツッコミどころ
・クマの出るような山奥で、10代の女の子が一人で1ヶ月も潜伏できるか
・佐々木希が殺されて放棄された場所が、どう見ても田沢湖。あんな観光客がいっぱいで、開けた場所に◯体を置くか?
・佐々木希の◯体が美しすぎる。だから犯人も田沢湖に置きたくなったのか。佐々木希と田沢湖、合うけれども。だからすぐに捕まったのか。
・室井さんが改修することになる、放置された山小屋と放置された秋田犬。秋田犬が放置されたらさすがに保健所が動きます。
・山小屋を一人で改修した室井さんがすごすぎる。若い人でも4、5人の仲間とクラファンで支援募ってやるレベル。お金じゃなく人手が足りないですって。
・あんなロケーションがいい山小屋を一人で改修してたら、近所の人がなんだなんだと見にきますよ。お茶とおにぎりくらい持ってきちゃうよ。
あとは猟友会の人たちが、どう考えても怖すぎる!
さすがにあんなに寄ってたかって、「この土地から出ていけ」と迫ることは現実にはないと思いますよ。…たぶん。
地名が「北大仙市」となっていたので、北秋田市とか大仙市あたりが主なモデルになっているのだとは思いますが。
ただ「お茶っこにでも呼ばれるかな」と言い方はふつうにあり得ます。
許可していないのに、ズカズカ家の中に入ってきたら、都会の人にとっては非常識というか、怖いですよね。
ツッコミどころではないですが、序盤から最後まで出てくる、秋田犬のシンペエが可愛かったなあ。
赤(茶色の毛色)で鼻が黒くて、まさに秋田犬! という感じの風貌でした。
シンペエがまた見たい。
もちろん室井さんの活躍も気になるし、子どもたちの動向も気になります。
続編が楽しみです!