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ふりかえるとよみがえる【毎週ショートショートnote】
「課長、承認お願いします」
俺はぎくりとして振り返った。
――本当によく似ている。
今年の新人である彼女の声を初めて聞いた時は驚いた。
昔の元カノにそっくりだ。
少し甘えたようなあの声。
いろいろ面倒があって、結局別れてしまったが。
懐かしい声に惹かれて、いつしか会社の外でも彼女と会うようになった。
「――私、母子家庭で……その母も最近亡くなって……」
うっすら滲んだ彼女の涙に、ついふらりと理性が揺らぐ。
気づくと俺は彼女の部屋にいた。
冷えたビールのグラスに口をつける。ああ、本当にあの頃みたいだ。
その甘い声が耳元で囁く。
「――亡くなる前、母に聞きました。私の父はこの会社にいる、と」
俺は眼を剥いた。だが体はぴくりとも動かない。
「堕ろせ、と言ったそうですね。でも母は……」
俺は必死に遠い過去を振り返った。
泣き崩れる元カノの姿がまざまざと甦る。
「すまん、すまなかった……!」
だがもはや声すら出せない。
彼女の唇が、ゆっくりと楽しげにめくれあがった。
【あとがき】
たまにはこういうブラックものも書きたくなる秋しばです。
最近ヘンな話ばかり書いているので(汗)
たらはさん同様、私も毎年恒例の坊っちゃん文学賞に取り掛かる……はずなのですが、ただいまアイデア枯渇中で、まったく物語が浮かびません。
こちらでの鍛錬がいい刺激になることを密かに願っています(笑)
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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