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山岳フリマ【毎週ショートショートnote】

「ずいぶん奮発したな」

上から下まで派手に決めた誠を見て、登山ビギナーあるあるか、と伸二は苦笑した。

「そうでもないよ。全部『山岳フリマ』で買ったから」
「……山岳フリマ?」
「うん。伸二みたいな経験者がさ、要らなくなった道具を売るんだよ」

誠の装備にちらりと目をやった伸二は、曖昧に相槌を打った。


「俺が買ったのは超ベテランっぽい人の店でさ。『もう僕は登らないから』ってすごく安くしてくれたんだ」

登り始めても誠の披露話は止まらない。伸二は適当に聞き流しながら、足元の石くれを踏みつけた。


「――なあ。道、こっちじゃね?」

コンパスを見ながら誠が右の道を指差す。

「いや、左だ。行くぞ」

伸二は、立ち止まったままの誠の手をぐいと引っ張った。

「え、でもさあ……」

右へ戻ろうと抗う誠の力は妙に強い。
伸二は腹を決めると、誠の手からコンパスをもぎ取って遠くの藪へ放り投げた。

「何すんだよ!」

だが伸二は構わず誠の肘を掴むと、強引に左の道へ引いていく。

山に詳しい伸二は知っていた。
右の道の先には、あるベテランの登山家が滑落死した現場が待っていることを。


【あとがき】
まずは文学フリマ東京39にて、寄稿させていただいたホラーアンソロジー『ウタ・カタ』創刊号をお買い上げくださった皆さまに、心から御礼申し上げます。ありがとうございます!!

11月末締切の原稿を落とし(どうしても納得のいく出来にならなかった)意気消沈していた秋しばでしたが、文フリで大量にエネルギーを頂いて帰って参りました。ありがたいことです。

というわけで、そんな時の復活はまずここから!
『ウタ・カタ』でちょっとホラーを書く楽しみを覚えてしまったので、今回は修行も兼ねて「ちょいホラ」作品に仕上げてみました。
お楽しみいただけたら嬉しいです!!

*この記事は、以下の企画に参加しております。


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秋田柴子
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