見出し画像

音声燻製【毎週ショートショートnote】

音声燻製なるものが世に出て久しい。
煙のかわりに美しい歌声や音楽、心安らぐ自然の音を聴かせて仕上げる製法だ。

だがそれも時代の波には抗えず、AI音声による燻製が登場すると流れは一変した。最も心地よいと感じる音を弾き出すAI音声は、瞬く間に燻製市場を席巻した。

「もう廃業するしかないか…この子の将来を思うと…」
「でもあなたの夢だった燻製工房でしょう?ここで諦めたら悔いが残るわ」

翌日から夫婦二人の奮闘が始まった。
交代で背中に赤ん坊を背負い、二人で子守唄を歌う。親の背中が嬉しいのか、赤ん坊がむずかりもせず、きゃっきゃと笑う。
夫婦二人と生まれたばかりの命が紡ぐ声が、狭い工房に溢れた。

「今話題の音声燻製がこちらです!」

カメラの前で大御所俳優がひと口食べて、感激したように目を閉じた。

「すごいね。じわっと心に沁みる優しくて懐かしい、なのにすごくフレッシュな味だ。まさに匠の手になる技だね」

赤ん坊を背負った夫婦が、にこりと恥ずかしそうに微笑んだ。


【あとがき】
人の手かAIか。
我々物書きの中でも何かと俎上にのぼる話題です。双方のいいところを上手く融合できるといいのでしょうが…。
何でもコスト重視は避けたいですね。まして芸術分野なら、なおさらです。


*この記事は以下の企画に参加しております


いいなと思ったら応援しよう!

秋田柴子
お読み下さってありがとうございます。 よろしければサポート頂けると、とても励みになります! 頂いたサポートは、書籍購入費として大切に使わせて頂きます。