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贅沢な悩み

 イギリスはロンドン、真夜中のトラファルガー広場。
 退屈していた四頭のライオン像の前に、突如三人の客が現れた。

「僕はシンガポールのマーライオンです。顔がライオン、体が魚という中途半端な自分が嫌でたまりません。あなた方が羨ましい」
 すると一頭のライオンが口を開いた。
「その体のおかげで水の中でも動けるのだろう。地で強く、水で速い。素晴らしいではないか」
 マーライオンは感激して帰っていった。

 次にエジプトのスフィンクスが言った。
「私は長い間、人間の顔をいだく屈辱に耐えてきた。何とかならぬか」
 二頭めのライオンが答えた。
「数千年の昔にあなたを建造したのは人間です。これほどの長きに亘って存在する像はないでしょう」
 スフィンクスは満足して帰っていった。

 最後の客は日本の狛犬だった。
「本来は獅子だというのに、今や犬などと一括りにされてしまった。もう我慢ならん」
三頭めのライオンが言った。
「獅子でも犬でも神の眷属に違いはない。謹んで務めを果たすべきであろう」
 狛犬は納得して帰っていった。

みな何と贅沢な悩みか、とライオンたちがぼやいていると、四頭めのライオンが言った。
「贅沢なのはおぬしらだ。我は出番すらなかったのだぞ」


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秋田柴子
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