夜からの手紙【毎週ショートショートnote】
夜の海辺で一人の女性が涙にくれていた。
大事な恋を失くしでもしたのだろうか。
月明かりに光る涙を見た夜は、その女性に恋をした。
毎晩海辺へ現れる女性に気持ちを伝える術はないものか。
夜は頭を悩ませた。
春の宵に甘い香りを流しても、夏に涼しげな風を吹かせても、彼女は夜の想いに気づかない。それならばと秋の虫に唄わせても、彼女の心には届かなかった。
やがて冬が来た頃、夜は考えた。
香りも風も虫の音も駄目ならば、いっそ手紙に想いを託そうと。
そうして夜は、空いっぱいに星を散りばめた。
空に輝くシリウスのように、あなたに焦がれてやまないと。
オリオンと逢瀬を重ねる月の女神アルテミスのように、これからもあなたに会いたいと。
「星がきれい……オリオン座しか判らないけど」
かすかに微笑む彼女を見た夜は、ひとり秘かに歓喜した。
そんなある晩、彼女が見知らぬ男と連れ立って現れた。固く手を握り合う様子に自分の恋が破れたことを悟った夜は、涙を呑んでこれまで空に書いた手紙を破り捨てた。
海辺の二人は寄り添い、夜空を眺めて微笑み合う。
「今夜は流れ星がきれいだね」と。
【あとがき】
今回初めて『秋ピリカグランプリ2024』に参加いたしました!
これはピリカさんという方が私設で開催されているコンテストです。
お題は『紙』。こちらに投稿された作品を、頑張って全部読んでおります。
いやあ、本当に同じ『紙』でも、捉え方・切り口が様々ですね。
すごく勉強になりました。
今後、この毎ショ道場にも活かしていけたらいいなあと考えております。
よかったらぜひ参加された皆様の作品を読んでみてください。
全員の作品が収められたマガジンはこちら ↓ ↓ ↓
締切は10月9日なので、我こそは! という方はぜひご参加を笑
ちなみに秋しばの作品はこちらです。
*この記事は、以下の企画に参加しております。