踊り明かそう
「ただいまぁ!」
おかえり、麻莉。
今日のレッスンはどう……やだ、また練習するの?今帰ってきたばかりなのに。帰ったら遊んでくれるって約束したのに。
レオタード姿で鏡に向かう麻莉の足元に、みゃあみゃあ鳴いてはまとわりつく。
「なあに。ミロも踊りたいの?」
違う、わたしは遊びたいの。
一緒に遊んでほしいのよ。
でも麻莉はこっちの気も知らずにぴょんと軽やかに跳ねて、にこりと笑った。
「じゃあ教えてあげる。これはね、『パ・ドゥ・シャ』。でもこれならミロの方が先生かも」
先生?わたしが?
「うん。パ・ドゥ・シャってね、『猫のステップ』って意味だから。シャはフランス語で猫のことなの。ほら、こうやって曲げて、跳んで、ふわっと。軽く、軽ぅく。そう、ミロの足取りみたいにね」
きゅっ、ふわっ、とん!
やってごらん、という麻莉の笑顔につられて、わたしも真似して跳び上がる。ふわりと浮いては、音も立てずにすとんと下りて。
ねえ、これでいい?
「わあ、ミロ上手いじゃない!じゃあ一緒に踊ろう。ふふ、音楽もかけちゃおうか」
麻莉がおうちで練習する時の聞き慣れたメロディ。いつもは鏡を見つめる麻莉の姿を恨めしく眺めるばかりだったけど、今日は違う。
今日からは違うの。
きゅっ、ふわっ、とん!
きゅっ、ふわっ、とん!
ほら見て、上手?
踊るのって楽しいのね。
何だかわたしもバレエが好きになりそう。
ねえ、麻莉?
わたしはほわほわした手を差し伸べる。
Shall we nyance?
いつか舞台に立てるその日を夢見て。
眩いスポットライトにあふれる万雷の拍手。
Shall we nyance?
でも今は、ただ踊り明かそう。
心ゆくまで麻莉、あなたと共に。
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