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誘惑銀杏(イチョウver.)【毎週ショートショートnote】

「……それ、なに」

グラス越しに訊ねると、相手はそれを口にくわえたまま、ふふふと含み笑いを洩らした。

「ひひょほ」

「は?」

相手は指先でそれをつまむと、もう一度口を開いた。

「イ・チョ・ウ」

派手なネイルを施された指先に挟まれているのは、確かにイチョウの葉だ。

「それは判るんだけどさ。何でそんなもの咥えてるの。酒飲むのに邪魔でしょ」

「イチョウの葉って、扇みたいに見えない? 中国かどこかのお姫様が持ってそうな感じの」

「ああ、まあ言われてみれば……」

「でしょ? だからあおいであげる」

そう言うと相手はかすかに濡れたイチョウの葉で、俺の唇をねっとりと撫でた。思わず腹の奥からぞくりとしたものが走る。

「……それ、あおいでないだろ。煽ってるだろ」

「ふふ。こんなお店来て、素面しらふで帰ろうったって無駄よ」


――翌日、俺は仕事を休む破目になった。

「ああ、これはイチョウ風邪ですね。何か悪いものでも口にしましたか」

……あの女め、さては保菌者キャリアだったか。



【あとがき】
ようやく少し涼しくなったと思ったら、今度は迷走台風に翻弄され、いささか体調不良の秋しばです。
6月から続いていた怒涛の締切ラッシュがようやく昨日で終了し、何とか毎ショ道場に復活できました。

……と思ったら、何ですか、このけったいなお題は。
「銀杏」の文字を見た秋しばは、最初うっかりギンナンで書いてしまって。でもよく見たら裏お題が「入浴委譲」だから、表はイチョウがお題なんですね。
でもせっかく書いたしな~、と思って、両方投稿することにしました。
だめだ、やっぱ頭がボケてますわ。


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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秋田柴子
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