1億円の低カロリー
「ほら、ここに埃が。ほんとに君はダメだなあ」
「ごめんなさい、あなた。さ、お食事よ。冷めないうちにどうぞ」
妻はにこやかに皿を食卓に並べた。
元プロの料理家だった妻の食事は、見た目も味も素晴らしい。結婚後は栄養学も勉強し、より専門的な知識も身につけた。
「やれやれ料理ぐらいか、及第点は。まあ女なら料理なんかできて当然だけどね。それに僕の健康には注意してくれてる?糖質とか」
「もちろんよ。低脂肪・低カロリーも意識してるわ」
「君にしては気が利くな。でも味は落とさないでくれよ」
そうして妻は毎日丁寧に食事を作り続けた。
だが数年後、男は心臓発作で呆気なく死んだ。
「まだ若いのに」
「奥さんもすごく気を遣ってたのにねえ」
葬式を終え、広い家に一人残された妻がぽつりと呟く。
「糖質を抑えながら低脂肪・低カロリーにするのは、却って中性脂肪が増加して危険なのよ。知らなかった?」
秘かに掛けていた保険金は1億円。
妻は遺影に向かって満足げに微笑んだ。
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