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秋田柴子の聖地巡礼 vol.2 ~宇都宮餃子〈4468字〉

タイトルを見ただけで、思わず苦笑なさるお仲間の方々も多いかもしれない。

――はい、ごめんなさい。秋しば、ついにやっちゃいました。

時に秋柴餃子右衛門とまで名乗り、一部の方々からは「餃子犬」などという不本意な名前を頂戴しているワタクシの悲願。それはつまり

「本場・宇都宮の餃子が食べたい!!!」

この一言に尽きる。
昨年も企みはした。だが
「いや秋田さん、東京から宇都宮は結構距離がありますよ……」
と、何人もの方からご忠告をいただき、断念したのだ。

というわけで、リベンジである。
しかし地図を見てみると、確かに東京から栃木県宇都宮は結構遠い。
なのでここはひとつ贅沢をして、埼玉県の大宮から新幹線を使うことにした。これだとかなり時間を節約できる。
そうして私はついに餃子の聖地、宇都宮へ降り立ったのだ。

ここでもコインロッカーを探すのにやや手間取ったものの、さっさと身軽になった私は、いざ旅の起点を記録に残すことにした。
昨年から仲間に教えられていた、アレである。

餃子像。
ちょっと言葉を失う(笑)

も~ん……
かの有名な(?)餃子像である。宇都宮駅前デッキの2階に鎮座しており、いちおう「餃子のビーナス」ということになっているんですが、なんですかね、このセンスは。好きだけどさ(笑)

さてこの日も昨日に続いて快晴ではあるが、ありがたいことに気温はぐっと下がったおかげで歩きやすい。
ということで、まず最初は土地の神様にご挨拶。
宇都宮駅から歩くこと、約30分。
宇都宮二荒山ふたあらやま神社である。

二荒山神社
市内の中心部にある

30分歩いた後の、この階段に泣いた(涙)
それでも頑張って登ってみると、凛々しいこまちゃんがお出迎え。
でもなぜかお隣の社には、えらくユーモラスなこまちゃんもいたりする。

ユニークな狛犬
左:本殿 右:摂社

ひととおりお参りしてふと気がつくと、境内は七五三参拝のご家族でいっぱいだった。さっきまではそれほど人も多くなかったのだが。

さてご挨拶が済んだら、いよいよ本命の宇都宮餃子である。
この二荒山神社のすぐ近くに、なんと『餃子通り』と呼ばれる餃子の店が並んだ、まさに聖地のような場所があるのだ。
だがいそいそと足を運んだ私は、予想に反した光景に驚いた。
人がいないのである。
なんか今回の旅行はこんなのばっかりだ。それとももう餃子ブームは去ってしまったのだろうか。

拍子抜けする思いで狭い通りに足を踏み入れて、思わずぎょっとする。
立体駐車場の影に、人・人・人の列……!
それは宇都宮餃子の中でも圧倒的人気を誇る『宇都宮みんみん本店』の開店待ちの列だったのである。

時刻は10:45。開店は11時だ。ふと見ると、店の脇に電車のような券売機がある。どうやら整理券を発行しているらしい。
この時点で番号はすでに30番で、30~50分の待ちとあった。観念して券を片手に列の最後尾に並んだものの
「ここに並んでなくてもいいですよ~。近くなったら戻ってきていただければ~」

ということだったので、その間にあたりの散策をすることにした。どこの店もまだ開店していない。だからあまり人がいないのだ。

するとすぐ近くに、見覚えのある店名の看板が見えた。栃木在住の仲間が事前に教えてくれた『みんみん』と並ぶ双璧『ぎょうざ専門店 正嗣』である。
『みんみん』ほどの待ちではなく、わずか数組が並んでいるだけだ。
だがここは開店が11:30。
さあ『みんみん』の30番とどっちが早いか。アチラは既に店を開け、少しずつ客が動き始めている。

どちらも大人気!

すると『正嗣』から店員さんが出てきて、並んでいる人にオーダーを取り始めた。

「あの、ここ11時半からですよね?」

すかさず訊ねると、店員さんはにこやかに答えた。

「いえ、もうそろそろ始めようと思います」

――よし、並ぶ。
私は一瞬で決断して、列に並んだ。既に6組ほど並んでいたから、最初のコールでは入れないかもしれない。だが正嗣の店舗はとても小さく「餃子以外は何もない」と公言している店だ。ライスやビールもないから、恐らく客の回転は早いと踏んだのである。

果たして待つこと15分。最初の客が何組か出ると、私は2番めに入れてもらえた。小さなカウンターのすみっこだ。
既にオーダーもしてあるから、出てくるのも早い。

店先に「当店の餃子は小ぶりだから、大人なら2~3人前でちょうどいい」と注意書きがあったものの、このあと数軒はハシゴする予定だから、とりあえず1人前にしておく。
宇都宮の餃子は、焼餃子と水餃子を両方頼む人が多いらしい。
そして出てきたのがこちらだ。

『正嗣』の餃子。280円!

でかいやないかっっっ!!!!
……というのが、まず心の中の第一声である。
しかも、一口食べるや

「あっつーーーーーー!!!!」

判っている。人が待ってるし、『みんみん』の順番もあるしで、焦って食べたワタシが悪いことは、よく判っている。
だがマジであっつあつの焼きたてなのだ。誇張ではなく、皿からもわもわと湯気が立っているのである。

この最初の一口で上顎を思いっきり火傷した私は、その後何度も宇都宮餃子の熱い洗礼を受け、旅から帰ってから10日間あまりもその傷跡に悩むことになるとは、この時は知る由もない。

だがそれはさておき。
確かに『正嗣』の餃子は、美味かった。とてつもなく美味かった。
正直、この一皿だけでもはるばる食べに来た甲斐があったというものだ。

私は1番手の痛烈なクリーンヒットにくらくらしながら、満足して店を出た。
こうなると『みんみん』への期待は、否が応でも高まる。
私は急いで数軒隣の『みんみん』の現在の受付番号を覗いた。

――24番!

何という、素晴らしいタイミングであろうか。
私の意地汚い作戦は、見事に当たったのである。実際そこから10分もしないうちに「番号28,29,30の方ーーー!」とお声がかかったのだ。
私はいそいそと手を挙げて、テーブル席に案内された。たった1人で4人掛けの席をもらって申し訳なかった。
ここはビールやライスもある。私も小ライスをつけてもらった。
『みんみん』は『正嗣』よりやや小ぶりで、いわゆる餃子! という感じだ。焼きもしっかり入って、シンプルでスタンダードな味わいだった。

『みんみん』の餃子。360円。

すっかり気分を良くして『みんみん』を出た頃には、表の様子はがらりと変わっていた。どこのお店の前にもずらりと人が並んでいる。『正嗣』も、ついさっきまでの待ちが数名だったことが嘘のように、今や店の角をぐるりと囲むように列が伸びている。
これではもはやどこにも並べない。さっきまでの自分は、とことん運が良かったのだ。

ひとまず餃子通りを離れ、私は再びメインストリートを歩き始めた。
実はこの日は偶然にも、栃木県庁にて小学館のお仲間である村崎なぎこさんの講演会が開かれるのだ。
ぼんやりしていて予約し損ねたものの、事前の問い合わせでは「当日受付もするかも」という話だったので、私はダメ元で行ってみることにしたのである。

栃木県庁に向かう途中、通りがかりにもう一軒、人気店の『香蘭本店』を覗いてみたが、昼時もあって見事に長蛇の列。これを待っていては講演会に間に合わない。私はそのまま通り過ぎて、再び県庁に向かった。

栃木県庁
向かいのイチョウがすごく綺麗

青空にイチョウの黄金色がくっきりと浮かぶ中、栃木県庁が見えてきた。
中に入ると、土曜日なので暗くがらんとしている。たぶん来ているのはなぎこさんの講演会絡みの人ばかりだろう。さすが栃木、入り口にいちごの大きなオブジェがあって面白い。
(餃子のオブジェがあったら、なお面白いのだが)
私は誰もいない、きれいなお手洗いで歯磨きとファブリーズに身を浄め(笑)、会場となる研修室へ向かった。

栃木県庁内部
あちこちにイチゴが(笑)

結論から言って、当日券なるものは存在しなかった。
問い合わせの電話に出た女性がかなり不慣れな様子だったので、当日設置する受付(予約した人のためのもの)を勘違いしたのかもしれない。
でもまあ、それは仕方ない。さっさと予約しない私が悪いのである。
知らない土地の県庁の中に入ることなど、まずないではないか。いや、下手をすると、自分の住まいの庁自体、あまり行くことはないのが普通だ。そう思うと、なかなか得難い体験であった。

さて足もだいぶ疲れてきたが、残念ながら宇都宮の街にはあまりカフェがない。再訪した先ほどの『香蘭』は相変わらず長蛇の列だ。
私は諦めてバスで宇都宮駅に戻ることにした。

ところが駅に近づいた頃、さっき諦めた『香蘭』の別店舗である西口店の待ち列がかなり少ないことを、バスの中から見て取った。

――行ける……!

私はバスを降りると、一目散にUターンして『香蘭 西口店』に向かった。
待ちはわずか数組。案の定、20分もしないうちに呼んでもらえた。
ここでも焼餃子を1人前。熱さには多少慣れたが、やはり焼きたてが出てくる。ひとくち齧ると、じゅわりとした肉汁がたっぷり出てくる、これぞ餃子! と言うべき逸品だった。

香蘭の餃子。350円。

さすがにこれが限界だった。
だが、充分に、本当に存分に楽しめた。
事前に情報をくれた友人には、本当に心から感謝したい。

例によってその日の夜は地元のバーに行ったのだが、またそこでの餃子噺が本当に面白かった。何でも地元の人は、あまり店には行かないらしい。

「まず行かないねぇ。年に1回とか2回とか、そんな感じだね」

へえ、そうなんですかと驚くと、何人もいるバーテンダーさんたちは一様に頷いた。

「そのかわりね、僕らは買うんだよ。買って送るの。冷凍のヤツね。あれを大量に買って、親戚とか友達とかに送るわけ。それこそ何万円の単位でね」

なるほど、そういうことか。

「ところでお姉さん、どこ行ったの? だいぶ並んだでしょう」

私が三軒の店を挙げ、さほど並ばなかったことを話すと、みんな「それはうまく回った」と褒めてくれた。そして店には行かないと言う地元の人たちの、実に熱い餃子愛にあふれたトークが繰り広げられていく。
宇都宮の中では『みんみん』と『正嗣』を「2M」と呼び、それぞれ贔屓の派が分かれていることを教えてくれたのも、この店だった。

「姉さん、あそこの店フライパンだった? 鉄板だった?」
「いや、そんなの席からは見えんでしょ。それよりあそこはプロパンか?」
「プロパンは店の中に置けないからな。○○ガスだろ」
「それになあ、あそこ先代死んじゃってからあかんわ。権利売っちゃったもんな。先代の親父さんの時は、ほんっとに美味かったけどなあ」

焼く道具から火力の強さ(都市ガスは弱いらしい)、経営者の家族構成にいたるまで、とめどもなく話は広がっていく。
こういう地元の人の語りは、聞いていると本当に楽しい。

そして帰りに、迷いに迷った末にたった1区、憧れの路面電車「LRT」に乗って帰った秋しばである。もう思い残すことはない(笑)

路面電車LRT(ライトレール)
意外と地元の人でも乗ってない人が多い

ちなみに宿泊先は『ダイワロイネットホテル宇都宮』。
めっちゃいいホテルだった。次回も来るならここにしよう。
今日も幸せな旅だった。

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秋田柴子
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