逆さ富士七転八倒【毎週ショートショートnote・裏お題】
「よっ、熊公」
「おう、兄弟。どうでえ、ひとつやらねえか」
「なんでえ、新年早々アレかよ。おめえも好きだなあ」
「へっ、そういうおまえはどうなんでえ。実のところ、やりたくてうずうずしてんだろうが。顔に描いてあるぜ」
そう言うと熊公は懐からサイコロと椀を取り出した。
「なんでえ、その椀は。富士の形じゃねえか」
「おう、正月だから縁起かつぎよ」
「おめえは変なところで律儀だなあ。まあいい、張るか」
「よし来た、入るぞ。そらっ――丁か半か!」
「丁!」
「よし、丁半勝負!――くそっ、ニゾロの丁……!」
「へへ、すまねえな。よし、もういっちょ」
丁!半!もいちど半!
どうしたことか、熊公、ちっとも八つぁんに勝てやしない。
「ちくしょう、正月からついてねえ。やめだやめだ、そら持ってきやがれ!」
熊公、懐の有り金をありったけ床に叩きつけると、悔しがってごろごろ板場を転がる有様。そしたら熊公が放り出した富士の椀も、逆さに転がってこぅろこぅろと揺れてたんだとさ。
(414字)
【あとがき】
おなじみ、長屋の熊さん八つぁんのお話です。
『丁半』は、ツボや椀にサイコロを2つ入れ、伏せてその目を当てるゲームです。2つのサイコロの目の和が奇数なら半、偶数なら丁となります。
上のお話では「ニゾロの丁」、つまり両方とも二で、足すと四で偶数、つまり丁となるわけですね。
子供の頃、お正月にお金賭けてやったなあ(時効)
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