誘惑銀杏(ギンナンver.)【毎週ショートショートnote】
「私を食べて」
ずいぶんと率直な売り文句だ。
俺は無造作にひとつ摘まむと、口の中へ放り込んだ。
――香ばしくて、美味い。
「私を飲んで」
不思議の国のアリスかよ。
昨今流行りの健康ドリンクの類かと鼻を鳴らす。
――まあ飲めないこともない。
「私に触れて」
ふん、食べる前はこんな形してるんだ。
白く硬い殻がざらりとした触感を放つ。
――素手じゃ割れないな。ペンチが要る。
「私を踏んで」
だめだ、それはできない。
こんなとこで堂々とそんな真似ができるか。
「私を踏んで」
無理だって言ってるだろ。
「私を踏んで」
ああ……もう俺は……我慢できない…………
魅惑の夜が明けた早朝。
朝日に照らされた黄金色のイチョウ並木の下で、無数の銀杏が軒並み踏みつぶされていた。辺り一帯は鼻の曲がりそうな異臭に満ち、通勤の人々がハンカチで鼻を押さえ、顔を背けて足早に通り過ぎる。
誰かが忌々しそうに呟いた。
「――いるんだよな、毎年一人ぐらいは。大量に落ちてる銀杏の誘惑に耐えきれなくて、片っ端から踏んで回る奴が」
【あとがき】
はい、こちらがボケまくった「ギンナンVersion」です。
こんなの書いといて言うのもなんですが、秋しばはギンナンが苦手です(笑)
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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