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肝試し美人化【毎週ショートショートnote】

「佐橋さんが欠席!?」

担任の報せに、教室中が衝撃に包まれた。

今日は校内の合唱コンクールの日だ。
この日のために練習を重ねてきたというのに、よりにもよってピアノ伴奏の生徒が体調不良で欠席したのである。

もう棄権しかないとクラス中が落ち込んだ時、静かに手が挙がった。

「あの、私でよければ弾きますけど」

小さな声は、いつも地味で目立たない一人の少女のものだった。
教室内が一瞬、不安で騒めいた。

だがいざ幕が上がると、全員が仰天した。
彼女の表情は別人のようにきりりと引き締まり、微かな笑みすら浮かべるほどの落ち着いた指捌きで、見事な音色を紡ぎ出したのだ。

「松山さん、助かったよ。すごいよね、普通なら誰でもビビるはずなのに、ぶっつけであんなに堂々と弾けるなんてさ。俺も安心して指揮できたよ」

恥ずかしそうに俯く彼女は、いつもの地味な女の子に戻っていた。
でも前で指揮棒タクトを振った彼は知っていた。

舞台の上の彼女が、いつもの何倍も輝いていたことを。

(411字)


【あとがき】
純粋な「肝試し」とはちょっと違いますが、もう時間がないのでこれで許して下さい(笑)

今年一年、たらはさんをはじめ『毎週ショートショートnote』道場の皆様には大変お世話になりました。
皆様のおかげで、楽しく書き続けることができました。
来たる2023年も、よろしくお付き合いのほどをお願い致します。
どうぞ皆様、佳いお年をお迎え下さい!!

*この記事は、以下の企画に参加しております。



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秋田柴子
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