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キャンプについて

猫も杓子もキャンプキャンプキャンプ。

テントサイトに並び立つスノーピークのテントたち。
色とりどりのタープ。
ノルディスクのとんがりテントからは煙突が飛び出して煙を吐き出す。

各自のテントサイトスペースには贅と粋と映えを競い合うが如くに焚き火台,椅子,コット,荷車,食器置き,ランタンが並ぶ。

競い合う?いえいえ、わたしはわたしの好きなものに囲まれているだけですと言い張ろうが似たような姿に収斂されていく皮肉。

それらに対するカウンターとしてグラウンドシートの上に寝袋を敷き入り込み空を眺める。

気がつくと子どもたちに取り囲まれ囃し立てられる。

「このおじさん生きてるよー!」

こらやめなさい!

母親らしき声。

寝袋から上半身を出し煙草に火をつけ今度は湖を眺める。

しゃくしゃくと聞き慣れたリズムで砂がなる。

きみは何をしているんだ。

湖を見てた。

そりゃ見ればわかるよ。

うん。

なんだっけそのホームレスみたいな。

ホームレスじゃない。ハードコア野営スタイル。

ようはホームレスみたいなものだよね?

違うよ!これはテントやタープなどで外界と己を遮らずだね

はいはい。ご飯できたよ。

カウボーイスタイルって知ってる?

ご飯できたよ。

はい、すいません。今行きます。


やがてブームは去った。
中古用品店ではキャンプ道具が半値の二割引で叩き売られている。

カルチャーとしては定着したのだろう。

おれは今でもハードコア野営スタイルを貫き通している。

安楽椅子にも似た折りたたみチェアに身を委ね毛布に包まりコーヒーを飲む。

虫?
朝露?

明白な天命マニュフェストディスティニーに従い西を目指した人間たちはそんなものを気にしただろうか?

同世代の男は安物のウイスキーを煽りながらこう返した。

気にしただろうし対策もしたろうに。

そりゃあそうだ。

絹の様な雲を月が照らし空は明るい。
星たちはその明るさに隠れている。

ぽつりぽつりとしようもない会話を交わす。

同世代の男は何も片付けぬまま舟を漕ぎ出した。

寝てるヤツを起こし
灰皿を戻し
過ぎていった夜の事を無言で思い

おれが口ずさみながら片付けを始めると同世代の男は呂律の回らない口調で言った。

未来より過去を考える歳だろうにおれたちは。

確かになあ。

パーティーは終わった
音は止まった
過ぎてしまったことは
もうしょうがない
アルズバーの夜のこととかな

未来は俺等の手の中/THE BLUE HERB

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