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カート・コバーンとオルタナティブロック

一番好きなロックミュージシャンといえばカート・コバーンという人もいるかもしれません。
音楽界だけでなく、ファッションの面でも大きな影響をもたらした圧倒的カリスマ性を持ちながらも、「27クラブ」という言葉で知られているように、27歳で自らこの世を去りました。

才能と引き換えに多くの苦悩を抱えていたそうですが、彼の才能は現在でも多くの人を魅了しています。


天才を深掘る

まず、これは僕が独りでにそう言っているのではなく、様々な評価がなされた上での世間の評価です。
近年、スマホが普及してSpotifyなどのサブスクリプション型の音楽配信サービスを使う人が爆発的に増えました。
新旧問わず、様々なアーティストの曲が一つの画面の中に並んでいます。
その並びには賞を取ったとか取ってないとかは全く関係なく、おすすめとして表示されます。

これには膨大な曲の中から、好みの曲に出会うことができるというメリットもありますが、その反面、偏った曲ばかりを聴いたり、
ルーツをたどらない、つまり、広く浅くの平面的な消費になるデメリットもあります。

そこで今回はグランジの代表格である、ニルヴァーナ、カート・コバーンについて社会的、そして歴史的な功績を深ってみようと思いました。



時代を反映したロックミュージック

ロックはこれまでに3回死んだと言われています。
まず初めに、ロックの歴史をざっくりと見返してみましょう。

ロックミュージックは1955年あたりのエルヴィス・プレスリーやビル・ヘイリーらを筆頭に若者を中心に発展してきました。
そしてその後、62年にビートルズがデビューし、ロックは盛り上がりを見せました。
60年代後半になるとサイケデリックムーブメントや反社会的な時代の流れとともに、その勢いはピークを迎えました。
中でもロックを語る上での歴史的なイベント「ウッドストック・フェスティバル(69年)」が開催されました。
愛と平和を掲げる約40万人が集まったとされましたが、こうしたカウンター・カルチャーもその後は急速に勢いを失っていきました。
そして70年にはビートルズが解散し、「ロックは死んだ」と言われました。

70年代はハードロックなどが発展していきます。
そんな中、ビートルズ解散から7年後のイギリスでパンク・ムーブメントが巻き起こります。
不況が続く中、セックス・ピストルズが登場し、イギリスではモラルパニックを引き起こしました。しかし、盛り上がりを見せた後はあっさりと解散し、ロックは反抗的なものからアート文脈へと形を変えました。
ピストルズを解散したジョニー・ロットンはロックなんてくそくらえ、そんなものは死んじまったと言い放ち、再び「ロックは死んだ」。


そして、3度目は94年にカート・コバーンが自死し、「ロックは死んだ」と捉えられています。

ロックと社会

ベトナム戦争や不況などが引き起こしたように、
社会が分断していくと、体制に反抗する集団が現れ始めます。
しかし、反体制的な意思表示をするには、社会という大きな統合物の認識が人々に共有されていなければなりません。
しかし、現代のように流動性を高めた社会に統一的なパラダイムは存在していません。
かつてロックが持っていたような、尖った発言や言動から何かが生まれるといった役割期待は社会の側には無いのです。


80年代に入ると、音楽と消費に大きな影響を与える存在が現れました。
MTVです。
24時間音楽のビデオクリップを流し続けるというスタイルは、音楽の商業的な価値を一層高めることになりました。

この結果、反抗の象徴であったロックは大量消費的な存在、つまり、もはやその象徴的意義は失われ、ポップと同じような存在と受け止められるようになりました。

この様な変化により、レコード会社はヒット曲を連発することのできるTOTOやJourneyなどの、ドラッグや反体制的な主張をしない安心して聴くことができるバンドを育てました。
しかし、評論家はレコード会社の言いなりで作り上げた楽曲に見えることから、産業ロックというレッテルを貼り、それらを見下していました。


ロックのポップ化により、往年のロックファンはその嗜好をヒップホップやワールドミュージックに向けました。

そういった時代背景の中で生まれた異端児がカート・コバーン率いるニルヴァーナです。
彼らは商業主義に迎合することを拒み続け、絶望感や虚無感を隠そうともせず、怒りと不満を歌やステージにぶつけました。


カート・コバーンが与えた影響

彼は往年のロックスターのように煌びやかな衣装とは打って変わって、ボロボロのジーパンに普段着でステージに立ちました。
商業主義的な価値観とは明らかに違う様はネヴァー・マインドのヒットを発端にファッションにも多大な影響を与えました。

グランジとよばれる着飾らないようなスタイルは古くて、汚いといった価値観をオシャレというものに書き換えました。
その影響は現在まで続き、根強い人気があります。

80年代後半にメジャーシーンで活躍していたガンズ・アンド・ローゼズは「セックス・ドラッグ・ロックンロール」のスローガンでこれまでのロックのように過激な表現で人気を博していました。

しかし、カート・コバーンがガンズを「あいつらは金のためにやっているのさ」と語ったことからわかるように、ロックの中でも対立構造が生まれたことを表します。

そういったことからもわかるように、ビートルズやエルヴィス・プレスリーなどの昔の伝説を今も大事に扱うリスナーと90年代以降のサウンドを聴いてきたリスナー層とではロックという名称を違うものとして捉えているといいます。
このロックだけど(従来の)ロックじゃない音楽がオルタナティブロックであるわけです。
ロックは死んだと言われていましたが、ロックは死んだと言われるようなロックは死んだ。ということで、
オルタナティブロックが台頭してきたことにより、実際はロックは転じたと言えます。


しかし、ニルヴァーナの反商業的なスタイルは矛盾を生じさせました。
MTVでは繰り返し『Smells Like Teen Spirit』が放送され、彼らの予想以上のヒットとなります。

それとともに、かつて自分たちが批判してきたメジャーシーンに近づいていくこととなりました。
このようなフラストレーションから、商業的なバンドに対しての過激なコメントや悪態をつくライブ・パフォーマンスが目立つようになり、世間からの注目を集めることになります。
このような矛盾は彼を苦しめ、冒頭で記述したように自ら命を絶つこととなりました。


そして、この死は音楽界に暗い雰囲気をもたらしました。
ロックが3度目の死を迎え、ニルヴァーナ以降、伝説的なロックバンドは出てこないとも言われています。


参考:南田勝也『オルタナティブロックの社会学』花伝社

この本面白いのでよかったら読んでみてね。

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