龍神桜
その昔、山奥の小さな池に
老いた龍が棲んでいました。
池の周りには
美しい桜が咲いており
春になると、どこからか
男の子が一人でやって来て
お花見するようになりました。
長い間孤独だった老龍は
小さな花見客の訪問を
密かな楽しみにしていましたが
ある日、池のほとりで
花弁を追いかけていた男の子が
足を滑らせて
池へ落ちてしまいました。
水中へ沈んでゆく
男の子を助けようと
老龍は力を振り絞って
硬くなった体をくねらせます。
そのうちに池の中で
黒い龍の鱗と
美しい花弁達が
激しく渦を巻きはじめました。
しばらくして
男の子が目を覚ますと
池の水はすっかりなくなっていて
あたりには黒曜石のような
龍の鱗と桜の花弁だけが
残っておりました。
池のあったその場所には
龍神桜と呼ばれる桜が
今も静かに咲いているのだそうです。
【手作りマスク×小さな物語企画2021】