あこがれのひと
ラフなジーンズとパンプスで
大通りを颯爽と歩く彼女に
目を奪われたのは
高校二年の冬だった。
ウサギを追うアリスのように
だれかを夢中で追いかけたのは
後にも先にも、あれっきり
どうして私は
あのひとが気になって
仕方がなかったのだろう?
あれから10年近く経ち
私は、もうその答えを知っていた。
彼女は自分が成りたかった
「理想」の大人だったのだ。
生まれてはじめて憧れた女性。
彼女の顔を思い出そうとするたびに
強い既視感が襲い掛かる。
あれは、本当は誰だったのか…
赤信号に変わった
横断歩道の向こう側には
大きな眼を見開いた女子高生が
私を穴があくほど凝視している。
あの時はきっと私も
ああやって彼女を見ていたのだろう。
既視感はそれだけではない。
ショーウインドーに映る私の姿は
あのひとに似ているように
思えてならないのだ。
信号が青になって高校二年の私とすれ違う。
このあとすぐ、あの子は踵を返して
横断歩道を渡り直すのだ。
これから数時間もの間、
必死で後を追う女性の後姿が
大人に成った自分自身とも気づかないままに。
物語付マスク企画2021
マスクサンプルモデル:鮎川あずさ