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「愛する」(キャラ文庫)/小説を書かなかった頃のこと(2015/9/28)
昨日のスペースで、佐々木禎子先生がこのときの日記のことを尋ねてくださいました。それで書けなかった頃の話を、思いがけずさせていただいて。
改めて担当さん、友人たち、そして読者のみなさんに感謝だなあとしみじみと思ってnoteに当時の文章のまま転載します。
「体が書かせてくれている」と、五十代になっていよいよ身に染みています。書かせてくれる体を大切にして、これからも小説を書いていきたいです。改めて、よろしくお願いします。
ありがとうございます。 菅野彰 2022/10/26
以下が当時の日記です。
「愛する」(キャラ文庫)発売中です。
高久尚子先生の挿画が、本当に美しいです。とても助けられています。
この物語は、書き上げられてとても満足しています。それが自分一人の満足に終わらないことを、ひたすらに願っています。
読んでいただけたら、嬉しい限りです。
よろしくお願いします。
今朝、この話がしたくなったので、したいときにしたい話をしようと、小説を書かなかった時期の話をします。
エッセイを書いたり、過去作品の復刊をして頂いたりしていましたが、発行年月日でいえば丸六年以上、小説を書いていませんでした。
書かなかったんじゃなくて、書けませんでした。
有り体に言えばスランプなのかもしれないし、色々理由もあったとは思うのですが、兆候はありつつもブラックアウトみたいな感じで突然一行も書けなくなりました。何も思いつかなくなってしまった。今まで自分が、どうやって小説を書いていたのかもわからなくなりました。
実際小説を書かなかったのは正味四年くらいで、その四年エッセイを書く以外のところで何をしていたのかというと、日常生活はそこそこ楽しく過ごしていたりもしたのですが、ずっと同じ夢を見ていました。
将来の夢とかではなくて、眠っているときに見る普通の夢です。
「あ、なんかこんな話が書きたい。こんな感じで、ああなってこうなって、こういう結末で。書けるじゃない。良かった、さあ書こう」
そこで目が覚める。
「なんだ夢だったんだ。書き方がわからない何も思いつかない。やっぱり書けないんだ」
電車に乗ろうとして乗れない夢みたいに焦っているのでもなく、テスト勉強していてテストに間に合わない夢みたいに魘されるのでもなく、夢を見てる時間は多分幸せで高揚して、毎日ではないですが四年ずっとこの夢を見ていました。
もちろんこの状態が、快適なわけはありませんでした。小説のことを考えるのが嫌になったし、でも小説を書く夢は見続ける。
そういう日々の中で、何も言わないでくれる人もいれば、「書きなよ。読みたいよ」と言い続けてくれる人もいました。
今にして思えば、これは本当にどちらも同じにありがたかったです。
そのうちに書けるかも書きたいなという状態になることができて、手慰みで短編を書いたりし始めました。
きっかけをくださった担当さん達に助けられて、なんとか今、またこうして本を出して頂いたりしています。
それは、励ましてくれた友人、長らく自分の勝手で休んでいたのに場を作ってくださった担当さんや、待っていてくださったみなさまのお陰以外の何ものでもなく、感謝しかないです。
一時はこのまま、もう一生小説を書けないのかなと、自分でも思っていました。
一度失ったことなので、今また小説を書くことと向き合えている中で、明らかに以前と考え方が変わりました。昔はただ好きで自分のために書いていたけれど、今はもっと書くことが大切です。それは私一人の内側の問題で、作品の出来不出来とは全く無関係な話ですが。
今朝、何故この話がしたくなったのかというと、何か他愛もない夢を見て目が覚めて、
「あの夢、見なくなったなあ。書けないのに、ああ書けるんだって喜んでる夢」
と、ふと気づいたからです。
もうあの夢は見たくないなあ。
そんな訳で、全方向にまた言いたくなりました。
ありがとう。
これからもおつきあい頂けたら嬉しいです。
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