翔べ君よ大空の彼方へ 6-⑪ 温もり
これがあの瀕死の重傷を負った元競走馬とは、事情を知らない限りは分かろうはずもない。それほどまでの、彼の見事な復活劇であった。
不屈の闘志の象徴•••障害馬術フランス選手権連覇の英雄•••彼の跳躍シーンを撮影しようと、数多くのカメラマンがシャッターチャンスを伺っていた。翔馬達もその英雄の姿を見守っていた。
やがて、ライダーがウォーミングアップを終えた愛馬を最初の障害物へと誘導した。
重力に逆らうかのようにふわりと障害を飛び越え、ふんわりと、まるで雲の上に着地をするかのように、その飛越動作には一切の無駄が見られなかった。
真っ白なたてがみと尾を、自らが作り出した涼風に靡かせ、次の障害へと推進していくその姿は、見る者全てを魅了してやまない。
これぞ正に人馬一体•••一糸乱れぬ天使の舞である。
彼女は馬上にて金髪のポニーテールを涼やかに揺らし、満面の笑みを浮かべていた。
本場のフランス料理は、やはり格別である。
たっぷりの鶏肉をホワイトソースで煮込んだ、日本で言うところのシチューであろうフリカッセ、バターだけで鶏、牛肉を蒸し焼きにしたポワレ、フォアグラ
、ローストビーフ、シーフードサラダ、エスカルゴ、焼きたてのマドレーヌ、スイートポテトが、そしてフランス産高級ワインが円形テーブルの上に鎮座し、彼らの胃をくすぐるかのようにその出番を待ち構えているかのようだ。
減量の必要のない翼が目を輝かせている。ローザと陽子が焼きたてのガレットとフランスパンをテーブルの中央にセットして準備は完了、国境を超えたホースマン達の夕食会が始まった。
「あれからもう20年以上経つんだね〜」
翼がお土産として持参した、ホワイトチョコをラングドシャ生地で包み込んだ北海道銘菓を口にしながら陽子が呟いた
。
「本当ですね。ついこの前まで小学生だったはずなのに、歳を取ると月日が経つのが早いです」翼の冗談めいた一言に、リビングは高らかな笑いに包まれた。
〝お前まだ28だろう!まあ、19で父親になったから、そう思うのも無理は無いのかな?〟翔馬は敢えて突っ込むのはやめて、手元のデザートに目を向けた。
パターの芳香がほんのり香る、しっとり生地のマドレーヌはまさに別腹、分かっていてもなかなか手を止める事は難しい、翔馬の大好物である。
〝そういえば、サツマイモの収穫を手伝いに行った時、いつも陽子さんマドレーヌ焼いてくれたよなあ•••手作りだよ!って笑っていたっけ。あの時と同じ味だ。これ夜食だからねって、こっそり持ち帰らせてくれたっけ。学校の帰りにもよく遊びに行ってたんだよなあ•••試験場のポニーにもよく乗せてもらったっけ。誕生日にはバースデーケーキまで作ってもらって•••〟
その当時の事を思い出し、意味ありげな含み笑いをした翔馬に、皆の視線が集まった。
照れながら思いの丈を語る翔馬を見守る皆の視線は、温もりに溢れていた。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、7月13日土曜日午前8時です🕗
かけがえのない仲間達が、日本へと戻る翔馬を見送ります✈️🌤️その時翔馬の背中に✨✨😳😳
それではまたお会いしましょう👋👋
AKIRARIKA
この作品を通して、養老牧場への牧草寄付等の引退馬支援を行います。その為のサポートをしていただければ幸いです。この世界に生まれたる、すべてのサラブレッドの命を愛する皆様のサポートをお待ちしております🥹🙇