翔べ君よ大空の彼方へ 6-❺ 兄弟
「ブレストファイヤー、ストロンクーガー抜け出した!栄光のゴールまで、あと僅か!しかし先頭2騎を一気に呑み込む勢いだ!4頭並んだ!しかし、ブレストファイヤー、ストロングクーガー2頭並んで差し返した!頭一つ抜け出して同時にゴールイ〜〜ン!僅かに遅れてスターダイナマイト、ダークブリザード入線かあ〜!大激戦となった有馬記念、勝者は全く分かりませ〜〜ん!」
興奮冷めやらぬ様子で、実況アナウンサーが絶叫した。
スタンドは大きく揺れ、その激戦の結末を見守るかの如く、その場を立つ者は皆無であった。
2人の騎手が、勝利の権利を持つ2頭の鞍上に騎乗馬を誘導し笑顔を見せた。
僅かに及ばず、悔しさはあるものの、ともに全力を尽くした者のみが知る騎手心理、何よりも彼と共に叩き合った満足感であろう。
翔馬は鷹と共に馬体を併せながら愛馬をクールダウンさせ、息を整えさせた。
第4コーナーを過ぎ、スタンド前まで戻ってきた人馬はスタンドの観客からの盛大な拍手を持って迎えられた。
長い写真判定は既に始まっていた。
「いやあ、お疲れさん!凄い戦いだったなあ。冥土の土産になるわ!」
冨士原師が笑顔を見せ、2頭の人馬を迎え入れた検量室前。
「縁起悪い事言わんでくださいよ!」
鷹が馬上から降りて、ストロングクーガーの首筋をポンと叩き、その素晴らしいファイトを讃えていた。翔馬も馬上を降り、ブレストファイヤーの鼻面を優しく撫で、安堵の笑みを浮かべていた。
無事に戻ってきた事が何より•••と言うのが偽らざる本音であろう。
「いやあ、ここまで来たら同着で構わないよな翔馬!」鷹は翔馬の肩をポンと叩いて笑みを浮かべる。
無論、望むところではある。しかし•••
。
「そう上手くいきますかね?同着ならこれ以上ない結末だろうけど。勝ち譲ってくださいよ先輩!」
モニターを注視している他の騎手や関係者からも笑いが起きる。
決着の時は、刻々と近付いていた。
「パパ、どっちが勝ったの?」
2人の子供が、興奮冷めやらぬ様子で父親に詰め寄っていた。
ワンツーフィニッシュ•••しかもグランプリで。どちらが勝っても、生産者として口取り式に望まねばならない。
翼は、代表と夫人、そして萩花と3人の子供を先導し、人の波を掻き分けて目的の場所へと向かっていた。
「分からん。できればどっちにも勝って欲しいけれど」翼の願いを込めた一言に
とんぼが言った。
「兄弟だもん。仲良くしなきゃ駄目だよ!ねえうさぎ!」
うさぎは姉の手を握り、満面の笑みを見せ頷いた。
一行が目的の場所へ辿り着こうとしたその瞬間、スタンドから耳をつんざくほどの大歓声が彼らの耳に届いた。
遠く離れた検量室前に歓喜の輪が広がった。
両雄並び立ち、その間に勝利ゼッケンを広げる2人の騎手の笑顔。
馬主、並びに関係者がずらりと左右に広がる景色は、正に壮観な眺めであった
。
そう•••願いは届いたのである。
今後、二度と起こり得ないであろう、G1競争での半兄弟による同着優勝であった。
この2頭が実戦で相見えたのは初めてであった。
お互いに流れている、綿々と受け継がれたその血が呼び込んだ勝利である。
そして、首差で続いた2頭も3着同着•••正に記録と記憶、共に刻み込まれた有馬記念、そのクライマックスは彼の一言であった。
「皆さん、応援ありがとうございます!色々ありましたが、たくさんの人に支えられ、無事に戻って来る事ができました」
再びスタンドが大きく揺れ、彼の名を呼ぶ大勢の観客。
「やっぱり•••馬が大好きです!これからも頑張ります!」
大空翔馬は、ここに完全復活を果たした。
英雄と新鋭•••息吹と鼓動と闘志が交わったその時、また新たな時代の幕が開けた。
そして、意思は、希望は次世代に確実に引き継がれていく。
この年もまた、世界中の競馬場を沸かせた競走馬達が、生まれながらの宿命を背負い、次のステージへと旅立って行った。
創世が近付いている。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます。次回配信は、6月22日土曜日午前8時です🕗
夕陽が空を、広大な海を赤く染め上げてゆく•••その幻想的な光景を見つめながら、1頭のサラブレッドが雄叫びを上げます。
未だ見えぬ、しかし感じ取ることができる。〝この海の向こうにライバルがいる!〟と。
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
人馬共に益々の活躍をお祈りいたします🙏🥹秋、狙うはエリザベス女王杯👸👑ですね🐴💨🔥
この作品を通して、養老牧場への牧草寄付等の引退馬支援を行います。その為のサポートをしていただければ幸いです。この世界に生まれたる、すべてのサラブレッドの命を愛する皆様のサポートをお待ちしております🥹🙇