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翔べ君よ大空の彼方へ 4-❼ 報恩感謝
ニコニコと笑みを絶やさない住職に導かれ、彼らは庫裡へと案内された。
少年と彼の両親、そして歩夢と久美であった。
広い和室の真ん中には囲炉裏があり、その背後には大胆な筆使いで書された
〝報恩感謝〟の掛け軸が掛けられていた
。
「大変お疲れ様でした」
住職自らが茶器を手に、それぞれの前に置かれた気品のある磁器にお茶を注ぎ始めた。
香ばしい芳香が和室を包み込んでゆく
。
一同が恐縮しながらも、口に含んだその味は、まろやかでコクがあり、ゆっくり口の中で味わいが広がり、喉を潤し胃へと流れ落ちてゆく。
逸品なのであろう•••あまりの美味しさ
と香ばしさに対するため息が漏れ出てしまう。4人は深々と頭を下げ、感謝の意を表した。
少年は、1人サイダーを飲んでいたが、〝飲んでみたい!〟と言ったので、笑顔の住職が、器にお茶を注いだ。
少年は目を丸くして、
「おいしいね、このお茶!とっても良い匂いだし!」と言い、デイパックの中からごそごそと、何やらのお菓子を出し始めた。
鎌倉銘菓のサブレであった。
「このサブレにぴったりのお茶だよ、お母さん!」
少年は、1枚ずつサブレを配り始めた。
もちろん、住職にも。
「ありがとう、未来くん」
住職は、満面の笑みを浮かべて、両手でその恵みの布施を頂戴したのであった
。
「人はね、現実の中で生きていかなければならない。現実と向き合って、どこかに折り合いをつけて生きていかねばならないんだよ。
彼はね、今自らに折り合いをつける為に、心の修行をしているんだよ」
「心の修行?」
住職の言葉に、少年が反応した。
「そう。心の修行だよ。大切な人を心の中で思い続ける為の修行だよ。未来君にはちょっと難しいかもしれないけれどね
。
未来君は、たくさんの人達に支えられて、助けられて、今ここにいるだろう?」
少年は大きく頷いた。
住職は言葉を区切り、お茶を一口含んで続けた。
「そこに掛け軸があるだろう?
〝報恩感謝〟ほうおんかんしゃ、と読むんだよ。自分自身が周りの多くの人に支えられているという事を忘れない。そして、その事に感謝をする心を持って、いつの日か、支えてくれた人に恩に報いる事を目指す。
未来君には夢があるかい?」
「うん!馬に関わる仕事がしたい!」
住職は笑みを浮かべ、優しい眼差しを向けた。
「夢はね、希望だよ」
「希望?」
「そう。希望に起き、努力に生き、感謝に眠る。夢を叶える為に起きる。叶える努力をする為に毎日生きる。そして、努力をした今日に、努力を支えてくれた人に感謝をして眠る。
感謝の心を忘れなければね、現実の中で、現実と向き合って生きていく事ができる。
彼はね•••翔馬君は必ず戻ってくるよ!
もっと強くなってね。この坊さんが保証する!だから、未来君も報恩感謝の心を持って、毎日頑張りなさい。きっと、良い事があるから!」
少年は、真剣な眼差しで掛け軸を見つめ呟いていた。そして、デイパックの中からメモ帳を取り出して、何やらペンを走らせ始めた。そして、
「ありがとう、住職さん。報恩感謝、頑張ります!」と、力強く宣言した。
メモ帳には
〝報恩感謝 ほうおんかんしゃ、希望に起き、努力に生き、感謝に眠る〟と、力強い文字で記されていた。
「また来ていい?住職さん?」
少年は、お寺の雰囲気が気に入ったのか
?住職に学びを得たいのか?しきりに、
〝また来たい!〟と両親にせがんでいた
。
歩夢と久美が、
「また一緒に来ようか!」と提案すると
、ジャンプをしながら喜んでいた。
「うん、いつでも訪ねて来なさい。ただし、無茶は絶対にいけないよ!ちゃんと
、お父さんとお母さんの言う事を聞くように!そうだなあ•••今度は写経を教えてあげよう!もっと、字が上手になるように」
住職が片目を瞑り、にっこりと笑った
。少年は顔を真っ赤にして、笑い合う両親を睨んでいた。
歩夢も久美も、そして少年の両親も、
〝ここに来て、本当によかった〟と、心の底から、この場所に導いてくれた彼と彼女に感謝をした。
少年が、車の窓から精一杯体を乗り出し、一生懸命に手を振っていた。
住職も僧侶も合掌をし、一行を見送った。
縁がまた1つ、繋がったのであった。
一行は立ち寄ったパーキングエリアで
、住職から頂いた高価な風呂敷に包まれた包みを解いた。甘酸っぱい香りが車内いっぱいに広がる。少年が嬉々として叫びを上げた。
「稲荷寿司だあ〜‼︎」
艶やかな稲荷寿司が20個ほど詰められていた。もう食欲を抑えるのが不可能だという事で、それぞれが箸を手にし始めた
。
「これ、めっちゃおいしい!」
少年のその笑顔につられ、1個目を口にした歩夢と久美が驚きの表情を見せた。
目を見合わせ、2個目を食べ終わったその時、彼女の瞳から涙が溢れ落ちた。
「どうしたの?お姉ちゃん?あんまりおいしくて、泣いちゃったの?」
久美が泣き笑いの表情で少年の頭を撫でた。
「うん、本当においしいね、この稲荷寿司•••」
少年は、満面の笑みで3個目に手を伸ばした。
慣れ親しんだ、彼女の稲荷寿司•••。
どこかで、心の修行をしているであろう
、彼からのプレゼントなのだろうか•••、
歩夢と久美は、彼の笑顔を思い浮かべた。
〝未来君はもう大丈夫だよ!みんな待っているから早く•••〟
2人はすみれ特製の稲荷寿司を口にしながら、彼に思いを馳せていた。
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PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏次回配信は1月10日水曜日午前8時です。
未来少年が生まれて初めてお馬さんの背に‼︎私が初めてお馬さんに乗った時の感覚を、少年にも味わって欲しいですね🐴
それではまたお会いしましょう🙇🙏
AKIRARIKA
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