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物語が「世界」をつくる 後編

「メタ認知」と物語の魔法

「自分の見ている世界って、誰かの見ている世界と同じだろうか?」

朝の電車で誰かに肩をぶつけられたとき、あなたはどう感じますか?
「なんて失礼な!」とムッとするかもしれません。一方で、その相手は「急いでいて本当に焦っていた」かもしれない。
さらに、周りで見ていた人たちは「朝から険悪な空気だな」と思っているかもしれません。

ケネス・ガーゲンさんはこんな言葉を残しています。
現実は関係から生まれる

つまり、世界というものは、あなた一人の視点では到底理解しきれないほど複雑なのです。
そして、その複雑さを解きほぐす鍵が「メタ認知」という考え方にあります。

あなたの「正しさ」はどこから来るのか?

こんな話を聞いたことはありませんか?

Aさんが「空は青い」と言うと、Bさんは「いや、今日はちょっと灰色っぽい」と返します。
そしてCさんは「夕焼けの色が映ってるからオレンジに見える」と言う。
このやりとりは、実は私たちの日常にもよくあることです。

つまり、私たちが「これが真実だ」と思い込んでいるものは、ただの「自分の物語」に過ぎないということです。

自分が語る物語の中で、何が「正しい」とされるかは、その人の経験や価値観次第。

では、あなたが語る「正しさ」はどこから来たのでしょう?
そんな自問自答が、メタ認知の第一歩です。

他者の物語を想像する

ここで少し立ち止まってみましょうか。

もしあなたが「自分は全てを正しく理解している」と信じているなら、それは危ういことかもしれません。
他者が語る物語に耳を傾けるとき、私たちは初めて自分の物語に偏りがあることに気づくのです。

たとえば職場で、上司が急ぎの仕事を押し付けてきたと感じる場面を想像してください。

あなたは「こんなに急かされるなんて理不尽だ」と思うかもしれません。
でも、上司の物語では「このプロジェクトが成功すれば、みんなにメリットがある」と考えているかもしれません。
そして同僚たちは「また彼がターゲットにされている」と感じているかもしれません。

このように、一つの出来事にも複数の視点が存在します。
そしてその視点の違いを意識することが、メタ認知の醍醐味なのです。

物語を重ね合わせる技術

では、どうすればメタ認知を活用できるでしょうか?

それはまず、自分自身の物語を観察することから始まります。
「自分はなぜこう感じているのだろう?」と自問し、そこに隠されたバイアスを見つめるのです。
そして次に、他者がどんな物語を語っているのかを探ります。

劇作家のアウグスト・ボアールさんは「人は演じることで、他者の視点を生きる」と語りました。

他者の物語に入り込み、それを感じ取る。

この練習を繰り返すことで、私たちは物語を重ね合わせ、共に新しい視点を創造することができるのです。

メタ認知がもたらす「優しさの視点」

「自分が見ている世界は、自分だけのものではない」と気づくこと。
それは、他者への優しさや理解を深める一歩になります。

村上春樹さんはこんなふうに言っていました。
「もし他人の視点に立つことができたら、世界はもっと優しくなるだろう」と。

メタ認知を通じて、私たちは世界の見え方が一つではないことに気づけます。
そしてそれが、社会や人間関係をより良くするための鍵となるのです。

今から少しだけ意識してみてください。
自分が語る物語、相手が語る物語、そしてその交差点にある新しい物語。

そのどれもが、あなたをより豊かな世界へと導いてくれるはずです。


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