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[ESSAY] それは盛ってるで。〜20年前に出演した筑波大学「雙峰祭」の思い出

誰に話を聞かせても「盛ってるエピソード」扱いをされてきた”伝説”の仕事がありました。

2004年だったと思うのですが、筑波大学の学園祭「雙峰祭」の大トリを飾るDJのお仕事をいただいたのです。

野外ステージで行われる学生バンドのライブの後、ぼくのDJで締めるという流れ。他に共演者はいませんでした。

その日は台風が接近していて、都心もとんでもない豪雨。当時、アシスタントをしてくれていた友人の運転でつくばに向かっているあいだも、視界が真っ白になって何も見えなくなるくらい、ものすごい雨量でした。

大学にたどり着いた頃には運良く雨は止んでいたけれど、当然のことながら昼間のライブは中止。その日の野外での催しはぼくのDJだけ……という事態になっていました。

「使わなかったステージ特効がたくさん余ってるので、水本さんのDJの時にすべて投入します」と実行委員長。

なんだかワクワクしてきます。

すっかり日も暮れて、ぼくの出番がやってきました。いざ、ステージに上がってみると、目の前のグラウンドには見渡すかぎりの人、人、人。

3千人…いや、もっといるかも。

年に一度の学園祭もこの宴で大団円。ぼくのことなど知るよしも無い大勢の若者たちが、ただ騒ぎたい/暴れたいという一心で大集結していたのです。

ステージから10メートルくらい前方に、不測の事態に備えて、おそろいの法被を着た実行委員たちが何十人もスクラムを組んでいます。

とても異様な光景でしたが、ぼくがレコードをかけ始めると、明らかに学生とは違うヤンキーっぽい輩が、人垣をかい潜ってステージに突進!

舞台上で暴れまわるヤンキーを取り押さえようとする実行委員との格闘で、木製の野外ステージはぐらぐらと揺れ、レコード針が何度も飛びそうになります。

しかし、そんなことはまったく意に介さず、オーディエンスはグラストンベリーやレディングもさながら、狂ったように踊り続けている!

昼間のステージで使うはずだった火柱が上がり、キャノン砲(銀打ち)が客にめがけて何度も放たれ、肩車で練り歩く連中……日の丸を振りまわすやつ……ジャンベを叩きまくる外国人軍団……号泣してるやつ……キスしてるカップル……どんどん視界に入ってきます───ぼくは夢でも見てるのか???

終始、揺れ続けるDJブース(CDJやPCの時代ではなかったので、すべてヴァイナルでのプレイでした)と格闘し、盛り下がることを忘れたお客さんたちに応えるのが必死で、写真ひとつ撮れなかった後悔があったのですが、存在も忘れていた映像が発掘でき、いくらかでも雰囲気が伝われば、いささかも話を盛っていないことがお分かりいただけるのでは!

おそらく、あの夜、あの場にいた人たちの多くが、中年のとばりに差し掛かっているんじゃないでしょうか。実社会に出て、仕事でそれなりに責任のあるポジションにつき、あるいはお子さんが出来たりして、学生の頃と違う楽しさや苦しさと直面している真っ最中かもしれません。

ぼくのことなんかちっとも覚えてないと思うけれど、花火のように美しく花ひらいたあの夜の楽しさを記憶してる方は少なからずいるでしょう。そして、この映像に記録されているような出来事を経験してるだけで、自分がちょっとだけ誇らしく、上向くような気分になるのは、ぼくだけじゃないはず。

願わくばこの先の人生でも、あと1回くらいこういう体験が出来たら嬉しいですけどね。

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水本アキラ
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