THINK TWICE 20211024-1030
10月28日(木) GET BUSY
道後にある生活雑貨店「BRIDGE」のHPをぼくのディレクションでリニューアルすることになり、写真家の阿部健くんを松山に召喚。約3年前にも商品写真の撮影をお願いしたんだけど、既存のアイテムに必要を感じた素材、この期間中に定番化したり、人気が伸びたものを撮り下ろすなど、25日(月)から28日(木)までの3泊4日で、かなりの点数を上げてもらわないといけなかった。
そのうえ、街の飲食店も時短営業が終了し、連れていきたい店もたくさんあったので、そっちのスケジューリングにもアタマを回す必要があった。朝8時のモーニングタイムから、夜の食事&飲み会までフル稼働。したがって、この期間は家に帰っても寝るのがやっとというありさまで、めずらしく疲れ切ってしまった(ふだんがあまりに怠惰すぎるという説も)。
ただ、クリエイティブな部分に関しては、阿部くんをブッキングできた時点で、ぼくの仕事は終わっているのも同然だ。
彼と出会ったきっかけはウェブマガジン『雛形』。ぼくが街の案内人というか、コンシェルジュのような立場をつとめ、立ち寄り先や地元の友人を紹介する───という仕事で知り合ったんだけど、最初の出会いから、彼の仕事ぶりを象徴するような出来事があった。
三津浜という港町の魚屋で働いているおばちゃん3人を撮ろうと考えた彼は、彼女らに声をかけて、店の前までわざわざ出てきてもらった。完全なるアポ無し、いわゆる飛び込みの取材だったから、それだけでもけっこう度胸がいることだけど、阿部くんは飄々と交渉し、自分のイメージする位置におばちゃんらを立たせ、通り過ぎる車を何台もやりすごして、撮るべきタイミングが来るまで、おばちゃんたちを粘り強く待たせた。そして、ここぞとばかりにシャッターを押した。
阿部くんはこのときフィルムカメラを使ってたから、その場で仕上がりはわからなかったけど、後日見せてもらったら、おばちゃんたちはこんな表情。ああ、見事だなあ、と感心した。
ひとつ400円のグラスを撮るときも同じ。納得のいく角度が見つかるまでシャッターは切らない。最良のポジションを検討し、ぼくにはわからない細々とした微調整をする。そのいっぽうで作業効率にも気を配り、まわりがイライラするようなことはない。その塩梅が実に見事なのだ。彼が『POPEYE』で受け持っている連載「二十歳のとき、何をしていたか?」で被写体にしている、キョンキョンや渡辺謙やクドカンといったセレブリティに向かい合うときも、きっと彼の姿勢は同じなんだろうな、と想像している。
撮影のときにぼくがやってた仕事のひとつはBGMの選曲。中でも阿部くんが気に入って、ヘビロテしたのがブレンダ・レイの「Dreamin'」。
この曲が収録されているアルバム『Wallata』(2006年)は、スライ&ロビーやルーツ・ラディックスなど、ジャマイカのレジェンドたちが残した古いトラックを発掘して、自分の歌や演奏をオーバーダブし、10年がかりで完成させたというユニークな作品。ジャケ写の雰囲気もすばらしい。
阿部くんが東京に無事戻ったあと、ぼくの仕事はこれからが本番。