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【短編小説】砂の少女〜失われた世界〜

あらすじ
長らく砂浜には何も無かった
そこに儚くも脆い”砂の少女”が生まれる
孤独な少女は”世界”を創り出すが…

読了時間目安:約3分


ザザー…

その砂浜では、何年、何十年、何百年も、ただ波の音しか聞こえてこない

ある日、波は崖や岩にぶつかりながら、偶然浜辺に人のような形を作った

まだ湿ったその砂の塊は、ポコポコと小さな空気を出して息づき
しばらくすると、大きく盛り上がって、二本足で立つ幼い”砂の少女”となった

砂の少女はただ一人、何もない浜辺で何年も過ごした
少女はあくまでも砂であり、浜辺は自分の居場所だった
ここから出ることはできないし、自分を維持するためには
海水を使って適度に湿った状態を保たなければいけなかった
油断をすればすぐに脆い体は崩れてしまう

そんな時、波が空き缶を連れてきた

その明らかに異質なものを恐る恐る手に取る少女
おもむろに足元の砂をすくい、ひっくり返してみると、そこに精巧な円柱の砂の塊ができた

これまでも手で砂遊びをすることはあったが、まったく違うそのシャープな印象に少女は衝撃を受けた

少女は何ヶ月もかけて、空き缶で繊細で美しい大きな砂の城を作った
そして王様や兵士、僧侶、医師、調理人、庭師
城下町には町人、農民、職人、芸者まで作った

その産み出された砂の人間たちは、少女と同じように動き働いた

さらに、この町に出入りする、旅人や商人を作った
彼らはどこかに行っては消え、また現れた

少女の作った砂浜はとても賑やかになった
彼らは皆、少女を敬い、様々なことを願った
少女はできるだけ要望に応え続けた

やがてそこには文明が生まれ、金と欲が生まれた

ある日、彼らは少女が作った城や家々を自分のものだと主張し始めた
争いが起き、創造主である少女にもその矛先が向かった

城や町は壊され、ボロボロになり
深く傷ついた少女の砂でできた脆い体は修復が追いつかずに崩れ落ち、
ついにすべてが砂に返ってしまった…

すると、少女に作られた人間もまた魔法がとけたように砂に返った

かつての活気に満ちたその浜辺には生気がなくなり
変わり果てた砂だけが残った

崩れた少女だった砂の塊の中から、風にあおられて
あの時の空き缶が転がり出る
そこに波が覆いかぶさったかと思うと、
浮上し、沖へ沖へプカプカと流されていった

ザザー…

そして、砂浜にはまた何も無くなった
それから何年、何十年、何百年経っても、その砂浜からは、ただ波の音しか聞こえてこない



すべての孤独な創作者へ心より感謝と尊敬を込めて

あきらみきと

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あきら みきと
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