リハビリに取り組む父と、家族のポジティブサポート(三浦豪太)
この文章は、『諦めない心、ゆだねる勇気』の著者・三浦豪太が担当します。
父・三浦雄一郎との共作で、この本をまとめました。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
リハビリに取り組んだ父の姿を伝える本
主婦と生活社の新井さんより連絡をいただいたのは、2023年の2月頃だろうか。確か、まだスキーシーズン中だった気がする。
「高齢者とそれを支える立場の人の両方をターゲットに、90歳の父・三浦雄一郎と50代の僕、それぞれの視点からの共著による本を出せないだろうか」
というお話だった。
直感的に「これはいい機会かもしれない」と考えた。
2019年に南米最高峰のアコンカグアに挑戦した後、父はかつてない危機に瀕していた。頸髄硬膜外血腫という難病を発症し、一時は1人で立つこともできなくなってしまったのである。
父の人生でもっとも絶望的な状況だっただろう。
ごく短期間ではあるが、珍しく弱音を吐いていた時期もあった。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で社会全体が大変な時期だったこともあり、僕ら家族はそうした父に関する情報をあまり積極的に発信してこなかった。
これまで、父を応援してくださっていた方のなかにも、頸髄硬膜外血腫を患ったことをご存知ない方も多いのではないだろうか。
だが、絶望的な状況から父は立ち上がり、新しい目標を掲げて前進を始めた。
気持ちを切り替えてリハビリに取り組み、自分の足で歩けるようになったのだ。
さらに、大雪山でのスキー滑走、富士登山という新しい挑戦が目の前に迫っていた。この時期に本を出すことは、そんな父の姿を多くの人に知ってもらえるチャンスとなるだろうと思ったのだ。
どうやら父も同感だったようだ。喜んで執筆をお引き受けすることにした。
本の軸とした「ポジティブサポート」
しばらくして、札幌在住の父と僕が上京した際、新井さんに事務所に来ていただき、姉の恵美里も交えて本の内容についてミーティングをした。
そのとき、キーワードとして浮上したのが、姉が口にした「ポジティブサポート」という言葉だった。
一般的に、親が高齢になり身体が衰えると、子どもや周囲の人々は健康状態の悪化を心配し、行動に制限を加えようとするケースが多いかもしれない。
「むやみに出歩いたら熱中症が心配だ」
「好き勝手に行動してケガでもされたら困る」
「これからはのんびり穏やかに暮らしてもらいたい」
そのように考える気持ちは十分に理解できる。
しかし、姉、兄の雄大、僕の3人は、年老いた父の行動を制限しようとしなかった。では、どうしたのか? むしろ、父の可能性をできるだけ広げようと考え、それを実現するためのサポートを始めたのだ。
介護を受ける人の目標を否定しない。
きょうだいや周りの人たちも含めたチームで向き合っていく。
姉はこれを「ポジティブサポート」と表現した。
新井さんによれば、「ポジティブサポート」の考え方は、本の軸になりそうだという。現在、介護問題に直面し、頭を抱えている人、暗い気持ちになっている人が、考え方を変えるヒントになるだろうとのことだった。
そうなれば僕も嬉しい。
そこで僕は、『諦めない心、ゆだねる勇気』のなかで、「ポジティブサポート」について詳しく書くことした。
考え方の基本、具体的な内容、そしてそれによって父がどのように変化していったかをリアルに伝えたかった。
障害があっても高齢でも、登山やスキーを楽しむ時代へ
またこの本では、僕が父のサポートとは別に、新たなライフワークとしている「インクルーシブ野外活動」についてもページを割いた。
「インクルーシブ」とは、「すべてを包括する」といった意味であり、「インクルーシブ野外活動」とは、心身に障害がある人、病気や高齢の人であっても、山に登ったり、スキーをしたり、その他の野外活動を楽しんだりする機会を提供する取り組みだ。
“父のサポートとは別”とは書いたが、無関係ではない。
この分野での僕の経験が、父の新しい目標をサポートする上でも大きなプラスになっているからだ。
本の中で書いた、「ポジティブサポート」や「インクルーシブ野外活動」の考えやノウハウは、多様性の尊重が叫ばれ、超高齢化社会となった日本で、必要とされるものではないかと思っている。
僕らの活動を知って、少しでも希望を持てた人、目の前が明るくなる人がいたら嬉しい。
三浦雄一郎・三浦豪太著『諦めない力、ゆだねる勇気』(主婦と生活社刊)
2023年10月13日発売:1500円(税別)
販売サイト