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トリオアイリス演奏会を終えて

昨年のベートーヴェン・チェロ作品演奏をきっかけに

トリオアイリスで木之本で演奏会をしたいとお話をいただいたのは今年の4月になる。エンモ・コンサーツの発足資料を作成している時だった。12月にいずみホールでコンサートされることを知っていたので、大舞台の前にどこか実践的な演習がしたいのだと察知した。とはいえ、こんな田舎の古ぼけたホールを選んでいただいて嬉しかった。

もともとはピアニストの大西真衣さんに着目していたのが発端だ。大西さんは夥しい数のコンサートをこなされていた。しかも、そのほとんどが楽器の伴奏で、実力ある奏者との共演ばかりだ。私はきっとこの方は相当な技量の持ち主で、音楽性の高い方に違いないと思っていた。そんな折、チェロの小棚木優さんとのベートーヴェンのチェロ作品全曲演奏会という企画が目に飛び込んできた。折も折生誕250年のベートーヴェン企画を考えていた矢先、3回シリーズで行い、あまり聴きなじみのない曲や大公トリオまで入っていて、実に粋な企画だった。私は小棚木さんに連絡を取って、大阪でのこの企画を木之本でも並行してやってくれないかとオファーした。

この企画はコロナウイルス感染拡大の影響で、初回が延期となり2回目からのスタートとなったが、3回の公演が2回で終わり、2回目にトリオで集まってもらった演奏会は、客数も30名ほどと申し訳ない結果に終わった。しかしながら昨年12月のこの「大公」の公演はとてもいい演奏で評判も良く、年明け2月の公演ができなかったことが悔やまれてならなかった。

縁をつなぐコンサートとして開催を決めた

12月20日のこの公演以降は会社から中止するよう命ぜられ、県からも市からも中止の要請はなかったのに中止を決めたことに納得はできなかった。その経験もあり、自分でコンサート企画のグループを立ち上げて、自分の意志で運営できるコンサートを開きたいとエンモ・コンサーツを始めた矢先に、ヴァイオリンの坂茉莉江さんから前述のようなお話をいただいたのだ。とはいえ自分でやるコンサートは会場費も負担しないといけないし、状況からみて集客も容易ではないので、とても恥ずかしいような出演料しかご提示できなかった。にもかかわらず、提示を受けて下さりとてもよいご準備をいただいた。一度、来ていただいた演奏家に再び来ていただくことは、エンモ・コンサーツのコンセプトである”縁をつなぐ”ことに合致し、2週間前の橋本幸枝さんのリサイタルとともに何とか成功させたいミッションとなった。

トリオアイリスはすでに2017年からに定期的に活動を続けておられ、それぞれの技量の高さも相まってこれから充実期に入られるトリオだ。日本演奏家連盟から新進演奏家育成事業の演奏会の場に抜擢されたのもうなずける。12月3日の大阪いずみホールでのコンサートは、彼女らにとってさらに飛躍できる大きなチャンスに違いない。いずみホールは私が大学卒業の頃建った室内楽の殿堂で、およそ800席の会場で演奏できることはきっと夢のような話で、ここでいい演奏をしたいと思うのは容易に推察できる。今回のプログラムはシューベルト/ノットゥルノ、ベートーヴェン/幽霊、ブラームス/第1番とドイツもので固めている。どれも構成がしっかりしていて、トリオの力量を見せるには向いているが、逆に恐ろしさも感じながら向き合わなければならない。ごまかしの効かないプログラムだ。何度も反芻して高め合っていかなければならないという意識は高いと思う。なので木之本でやっておきたいという気持ちが痛いほどわかる申し出だった。

実はエンモ・コンサーツ立ち上げの際に協力のメンバーから、企画の際には必ず馴染みのある曲を入れ込まないと集客や満足度を与えることが難しいことを助言いただいていた。その点から行くとこのプログラムは厳しい内容だった。しかしながら、前述の意図から曲目はこれでないと意味がない。心して集客にはげまないといけないと思っていた。そんな折、9月に予定していたコンサートが緊急事態宣言のために不可抗力として開催できないことになった。そのことが県の助成金を受けられる資格を得ることとなり、新たな行動に出た。コロナ対策として収録配信に助成金が出るのだ。事業費にも大きな助成がある。配信はともかく収録してあげれれば、12月の公演に向けて大きな助けになるのではないか。収録には、音楽事務所の経営者でコロナ禍で収録に前向きな方がいたし、趣味でプロ並みの録音をされている方にも出会え、条件が整ってきた。事業費の助成により思い切った招待枠をとり、とにかく人を集めた。

また、今回もう一つの試みとして、視覚障害の方を招待させていただいた。視覚障害の方にどう告知したらいいのか、県の視覚障害センターから市の視覚障害福祉協会をご紹介いただき、付き添いの型含めて16名のお客様に来ていただいた。また、その歳の気をつける事項も学ばせていただいた。

素晴らしい演奏と嬉しい反応

演奏は昨年より安定感の増した素晴らしいものだった。特に坂さんのヴァイオリンは音の落ち着きがよく、全体に安心感を与えてくれた。大西さんのピアノは室内楽の構築への気配りが感じられ終始品格を保つことに寄与していた。小棚木さんのチェロは深みがありよく謳い時に中心的な存在を掴み、飽きのこない展開を演出していた。

そうした演奏レベルの高さが、この難しいプログラムの公演において、クラシック初心者や聴き馴染みのない楽曲への壁を低くしたと思われる。心を動かされたという内容のアンケート記述が目立ち、総じて満足いただけたことがとても嬉しい。また、こちらの心配に応えるかのように、アンコールとして日本のメロディのメドレーを用意していただき、聴衆に癒しの空間を創っていただいたのもありがたかった。

10月の地元には馴染みのないメンバーによる2公演は、共に昨年に続いて登場いただいたことから、ファンのとして定着いただいたお客様もおられ、さらに“縁“を深めることができ、この方向での企画構築に自信を持つことにつながる結果となった。
12月は、地元で活躍する方、地元出身の方、の登場となる。地元の縁もさまざまだが、特に地元出身でありながらも外へ出て研鑽を積んでこられた音楽家が、その間にコネクションを失ってしまうがために地元での援護を受けられない事態に陥りがちなことに憂慮し、なんとかサポートしていきたいという思いが強くなる。12月はまたこの新たな課題に挑みたいと思う。

トリオアイリス-129B


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