見出し画像

公募ガイド10月「小説でもどうぞ」感想

「空のキャンバス」皆川まなさん

この作品が佳作以上でなかった理由のひとつは多分、何十年にも渡る話を五枚弱に納めているせいかなと。おそらく内容が枚数に合ってないとあらすじの羅列みたいになって、よほど上手に書かないと不利なのだと思います。今まで読んだ他の方にも内容はいい、テーマにも合っている、けど話が何十年にも渡っているためせかせかした感じになっていて惜しいなあと感じる作品がありました。偉そうにごめんなさい。自分もそういうのばっかり書いています。

さらに本作は改行が極端に少なく画面が黒い。ちゃんと目を追っていくとかなり巧い文章とわかるのですが、画面を開いたとき咄嗟にわっと思ってしまいました。でも読後、本作が一番、心に残ったんです。それは「そして今、~」からの最後の段落がものすごくいいから。主人公は描きたいものだけを描ける風になった。瑪瑙の城のような夕焼け、白い波雲、なんて美しい景なんだと。自由を得たはずなのに諦念と悲しみが字の向こうから浮き出てくる感覚はいったい何なのでしょうか。

振り返ってもう一度読むと、画面が黒いのは(小説でもどうぞに限らずどの賞でも)選考には不利かもしれませんが、主人公の心の鬱屈を表しているとすると効果的である気もしてきました。


「家庭」仲井令さん

真面目なおかしさが魅力です。教授のやってることは例えば、様々なプロフィールをこしらえて複数のアカウントで活動する行為に似ているなと感じました。メーカー退職悠々自適の六十代爺とか、三十代二児の母親ですとか、オーストラリア在住の高校生ですとか。違う人物になりきるのは確かに楽しい。幾つもの人生を味わえますからね。書き分けできる自信がないしばれそうなので私はやりませんが笑。

家族という人の繋がりが教授にとってのアートだという。いまは人との関係はそれぐらいが精一杯、と仰いますが、七種類ほどもの家族を演じるってなかなかできませんよ。いや、流動性ある他人との関係より固定化されてる「家族」だとまだ楽なのかな。最後の一文が冴えてます。ただひとつの家族(アート)で満足できる自分に主人公は安堵したのです。


「石を売る」有原野分さん

作者が言いたいことは「芸術とは高名な作者が作ったものではなく、人の心を穿つもののことを言うのでないのか?」に集約されていて、爺さんはおそらく作者の分身なのです。爺さんの台詞がちょっと長いですが気にならないのは言うことがいちいちもっともだから。

最初に高額商品を見せ、それから値を下げるのは詐欺の手法なんですが、主人公は気づかない。そうして、一万円で買ったただの石ころをその辺に放置して帰ります。放置しなければならなかった。なぜなら真の芸術とは、モノではなく、それほどの値のついた気分のようなものだからです。そう納得してしまうのは、私も爺さんに騙されているからかもしれません笑。


「せっかちな芸術家」藍染迅さん

こちらも作者の芸術観が爆発しています。最後に自分の作品を本当に爆発させています。惑星芸術家=神様、創造主が本当にいるとするとこういう人物ではないかと自分も思っていました。私らがバカやったので創造主は地球を滅ぼすしかなかったのですね。さもありなん……。中盤で陶芸家の悪口を言ってますが実は自分のことでした。伏線が見事。惑星の作り方として陶芸家のようにこね回すというのがアナログでほほえましい。


「くじらの絵」島丘來さん

「ちょーだい、と気の抜けた声は、二日前に聞いたものとはまるで違っていた。」ここ、着目しました。女性には理由があって、主人公の絵を本当に気に入って買ってくれたのではなかった。有名になったら行くというのもなかなか失礼な台詞で笑、女性が最初の興奮から醒めているのと主人公の落胆とがこの一文で同時に表現されていて巧いんです。もしかすると一期一会の出会いかもしれない、でも、一瞬の出会いがその後を変えることが、人生には
る。女性の台詞に奮起する主人公。読後、心に小さな灯がともりました。



自分の作品は没でした。だからまさに、おまいう!? なんです。が、書かずにはいられなかったということで、お許しください。