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公募ガイド「小説でもどうぞ」感想②

佳作「時を止める方法」ともみさん

主人公は夏休みの最終日にクラスの女の子から今日をできるだけ長くする方法が知りたいと話を持ち掛けられます。その後色々あって、ラストにその子が自分を友達と言ってくれた。主人公には友達がいなくて、だから、衝撃を受けるんですね。「何度か口の中でくり返すと、セミが自分の体の内側で鳴いているのかと思うくらい、こころがざわめいて、落ち着かなくなりました。」描写がめちゃ巧い。わかる、わかるよーってなりました。私も友達少なかったから笑。この方の文体はなんでここで? という箇所が現在形になってて独特で(「村田さんはうれしそうにキッズケータイで家に電話をかけます。」など)、時間がちょっとゆっくり流れるといいますか、作品に合った雰囲気をかもしだしています。


佳作「心を病みたい」ササキカズトさん

のっけの「ちょっと病んでいるくらいじゃないと、いい小説は書けない。」でぐいっと吸引されます。これは読まされるわと。そうですよね、そう思うんですよ私も。創作してるほぼ全員が持っている思いではないでしょうか。完全に芥川や太宰の影響ですよねこれって。心が健全な人の小説はつまらなそう…。で、主人公が目指すのは「体は健康、心は病気」な状態。これはとても理想的です。創作してるときだけ飛びたい。玉置浩二のように脳内麻薬を出す方法を真剣に考えたこともありました。主人公は悩んで父親と友人に相談しますが、実はイマジナリー父親と友人。悩まずとも脳内でちゃんとキャラを作って話が進行できているわけです。大丈夫です、主人公はいい小説が書けそうです。最後に看護師が出てきますがこれもイマジナリー看護師じゃないかと私は睨んでおります。


最優秀賞「相談者の憂鬱」芋粥竜之介さん

競馬の専門用語が飛び交うんですけど、競馬に明るくない私でも楽しく読めました。途中でオチがわかったのですが(ミイラ取りがミイラになる)、文章が巧いしキャラが活き活きしているので気にならず最後までおもしろかった。なんと手書きでの応募だとか。ええっ驚。小説でもどうぞでは手書きだから不利ということはなく内容がよければ採ってもらえるんだと一つ指標になりました。気になったのは、中村さんの「鰯雲が読めないし意味ありげなので、冒頭で引っかかってしまう。」うーん……手書きゆえに鰯の字が潰れて読めなかった、ものと考えておきます。鰯雲の牧歌的な一文から始まって実は生臭いコメディ。巧い冒頭です。

作者の競馬愛がギンギンに伝わってきます。競馬が好きな人は賭け事が、というよりも馬が好きなのでしょうね。私も名勝負まとめ動画をたまに見るのですが、一番気に入ってるのがなんといってもオルフェーヴルのこれ。

競馬ファンなら皆さんご存じですよね。途中トップだったのに中盤急に失速して後ろから2馬目まで下がるしかしそこからのすごいまくり、惜しくも2位!なんやこれ、なんなんこの漫画展開、なんなんこの〇チガイ馬、君すげぇ~!って笑いが止まりませんでした。見たら必ず元気が出る動画。

そのオルフェーヴルの引退レース。

「これが!これが!目に焼きつけよ!これが!オルフェーヴルだあ~~~!」はい、泣きました。夕日に照らされた有終の美、これ以上ないドラマチックな舞台。

そして私でもその名を知っていたディープインパクト。

この馬はしろうと目に見ても他の馬より若干体が小さい。なのにこの走り。これも引退レースなんですが、最後に皆の期待通りに圧倒的な強さで勝つというのはもう出来すぎというか、これぞ王者の証、ってことなのでしょうね。後方からすごいまくってトップに出てくるさまは血が沸きます何度見ても興奮します。依存症になるのがわかる気がします。