Mさんの行方#エッセイ
東日本大震災の日は金曜日で仕事中でした。職場のビルの5階。床がぐら~、ぐら~と大きくゆっくりと揺らぎます。ビルが古いのでポッキリ折れるのでは、崩れるのではと恐怖で動けませんでした。ああいうときって固まってしまって動けないものですね。
揺れが収まったらみなすぐに、休憩室のテレビを見に行きました。余震がきて電車が走れなくなったらいけないということで、その日の仕事は終了となり、帰宅しました。
翌週。リーダーのMさんが来ません。次の日も、次の日も。無断欠勤です。上司がMさんに電話、メールをするも連絡がつきません。親戚が被災地にいて、そちらに行ってるのは? ボランティアしてるのかも、と結論づけ、静観することになりました。
Mさんは私より三つほど年上の男性で、ちょっと変わった人でした。私が誰かと喋っているといきなり割り込んできて、私が話している相手に喋りかける。で、話を持っていってしまう。残された私はポカーンです。
なんなん。まあいいけど、と思っていたら、同じ目に遭った人が他にもちらほらいることが判明。「仕事はできるけど、人に気を遣わないところのある、ちょっと、いやかなり変わった人」というイメージを私たちはMさんに持っていました。
一ヶ月過ぎてもMさんは来ません。そのころ同僚と喋っていて、不思議な話を聞きました。
「地震の前、Mさんが、やたら頭と歯が痛くて眠れへんって言ってはってん。で、地震やろ。これってまさか予兆なんかな?」
「いやー、偶然ちゃう?」
「そうやんなあ。けど、本人があれから来おへんから、あの話気持ち悪かったなあって思ってて」
偶然だと思いたい。結局Mさんは現れず、そのうち自分が違う部署に異動になったので、彼の行方は知らないままです。大地震のショックを受けて、明日は我が身、ちまちま仕事してる場合じゃない! と「開眼」されたのかもしれませんが……。