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界のカケラ 〜75〜

 「生野さん、まだゆいちゃんは戻ってこないですし、そろそろ風が冷たくなるので病室へ戻りましょうか」

 「そうなのか・・・ 残念だがしょうがないな。この老体に寒さはこたえるしな」

 「風邪を引いては大事に至りますからね。病室まで付き添いますね」

 「そうか。孫のような可愛い子が付き添ってくれるのは嬉しいな」

 「またまたご冗談を。でも嬉しいです」

 私は久しぶりにそう言われてお世辞でも冗談だとわかっていても嬉しくて足取りが軽くなった。病室へ付き添う間、少しばかり話をしていた。

 「そういえばさっき市ヶ谷さんの最後のお辞儀の仕方が、お姉ちゃんの深鈴さんとそっくりだったんですよね。長い時間を過ごした人は動作や言動が似ると言いますが、生野さんと結衣さんで似たような仕草や言葉遣いってありましたか?」

 「似たような仕草や言葉遣いか・・・ そうだな・・・」

 考えている時間がありそうだったので、生野さんの姿や仕草を観察しようと試みた。腕の組み方、どちらの腕が上か、体の傾け方、手の動かし方、考えている時に無意識に出る言葉などを隈なく見れば何かヒントがありそうなものだ。そのポイントを伝えてあげれば、どれか一つくらいは当たるはず。真面目な部分がほとんどだが、どこかクイズに答えるようなワクワク感で探していた。

 「その人差し指と親指をあごに挟む仕草は違いますか?」

 「あ、これかね? これは違うな」

 「じゃあ、これとか?」

 矢継ぎ早に該当しそうな仕草を生野さんに聞いていった。本当にクイズに答えるような感じになってしまい、意地でも当ててやろうと当初の目的からかけ離れていったことに気づいていたが、面白くなってしまい止められなくなってしまった。生野さんにとっていい迷惑だ。自覚しているのに止められないのはもはや重症だ。

 しかし迷惑そうな顔をせずに丁寧に答えてくれる生野さんは、どこか楽しそうだったのを感じ取っていた。昔もこういうことがあったのだろう。

 「ふふふ・・・ そういえば結衣も気になることがあると、そうやって私が答えられなくなるくらい、たくさん聞いてきたな。それでいて自分でわかりだすと一気に静かになって、勝手にいつもどこかへ行ってしまう。結婚した当初はそれが疎ましかったが、慣れてくると面白くもあった。わざとわからないことを聞いて、私に聞いてくるように仕向けたりしたなあ。あの頃が懐かしいよ・・・」

 しまった。心の琴線に触れてしまったようだ。そんなつもりではなかったのに。でも結衣さんのことが聞けたことに少し暖かい気持ちになった。しかし私はいつからこんなに聞くようになったのだ? 普段の私とは違ったことに驚きと戸惑いが生まれていた。

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akira
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