界のカケラ 〜105〜
この世は理不尽なことであふれている。むしろそれしかないようにさえ感じる。たまたま生まれた環境が良かっただけで私は今の人生を歩んでいる。でもそれが少しでも違っていたら、今の私は存在しているだろうか。
今日まで生きてきて自分は不幸せだと思うことは何度もあった。
しかし、人の幸不幸の尺度は人によって違う。私にとって不幸せであっても他人にはそうでないことが多くある。誰の目にも明らかに幸せ、不幸せと感じるものだけが絶対的な尺度であって、それ以外は相対的なものでしかない。それを人は理解して常に持ち合わせてなければいけないし、意識的に使うようにしなければならない。これが出来ない状態が差別やいじめに繋がり、時には人の命を奪ったりすることになるのだろう。
私は彼女に同情する方が良いのだろうか。それとも慰めた方が良いのだろうか。
短い間に二人を亡くした心境に寄り添うのは私には難しい。経験もないし、上辺だけで気持ちの入っていない言葉など干からびた抜け殻と同じようなものだ。
何も言えずに遠目に彼女を見ていることしかできない私は無力だ。彼女に会いに行く前の強気な姿勢が恥ずかしく、傲慢過ぎていた。
でもそれ以上に悔しくて仕方がない。想定していないことを聞かされたとは言え、こんなにも何もできないなんて私の今までの人生は薄っぺらい紙も同然だ。結局、私にはまだ早過ぎたということなのだろう。医者としても人としてもまだまだ未熟なのだということを思い知らされた。
やっぱり私の救いたいという気持ちはエゴでしかなかった。エゴがあって出来ることもあるだろうが、エゴにも種類や度合いがあることを今初めて知った。思い上がったエゴなど最悪のことしか起こせない爆弾と同じである。
もっと自分の人生を経験豊かにし、ほかの人の人生を知るべきなのだ。たった二十八年しか生きていない私には荷が重過ぎた。