界のカケラ 〜65〜
「徹くん・・・ あのね。みんな忘れたわけじゃないんだよ。そう見えてしまったかもしれないけれど、心の中では覚えていてくれているんだよ」
「うそだ! だったらなんでお姉ちゃんに会いにこないの? 話をしないの?」
「うそじゃないよ。みんな一人一人、思い出してくれていたんだよ。お姉ちゃんは死んじゃってから少しの間だけお家にいたし、学校にもいたし、徹くんのそばにいたんだよ。その時ね、みんな昔の記憶を思い出してくれたり、悲しんでくれたり、寂しがてくれたり、また会いたいって言ってくれたりしたんだよ。徹くんと同じようにね」
「でもそんなのわかんないよ・・・」
「だよね。それに言葉にすると悲しくなってしまうし、だから中々会いに行くこともできないんだよね」
「うん。僕もそうだった。だけど言葉にしたし、会いに行った」
「ありがとう。知っていたよ。徹くんがいつも来てくれたこと。話したくても話せないし、声を出しても聞こえないから、もどかしかった。だからお姉ちゃんはいつも徹くんの肩に手をあてて『泣かないで。強い男の子になってね』って言っていたんだよ。少しでも伝わっていればいいなって思って」
「そうだったんだ・・・」
「そうだよ。本当はそばにいたかったんだけど、そうもいかなくなっちゃって徹くんには会えなくなってしまったけど」
「どれくらいいたの?」
「二ヶ月くらいかな?」
「そんなにいてくれたんだね」
「本当はもっといたかったんだけどね。次の生まれ変わりのためにやることがあってね」
「ふーん。そうなんだ。そんなのがあるんだね」
二人のやりとりは昔はいつもこのような感じだったのだろうと思わせた。お姉ちゃんを慕う市ヶ谷さんの様子から、もし深鈴さんが生きていたら、今の市ヶ谷さんはこの状態ではなく、素直で立派な大人になっただろうと思った。