見出し画像

界のカケラ 〜122〜

 辺りを見回したが、音の元になるものはなかった。

「何の音だろう?」

 その音は止むことなくずっと聞こえていた。
 これだけはっきり音が聞こえるのだから、他の人も聞こえているだろうと周りの人を見たが、まるで聞こえてないように見えた。

「これはもしかして私だけに聞こえる音なのか?」

 そこでハッと気付いた。

「この音は飛んでいる音ではない。

 この音は生野さんが話していた、カケラがなくなっていく音だ。風化していくように徐々に砂のような粒子になっていく音。

 だからこの音は生野さんから聞こえているのだろう」

 生野さんに目を向けると、周りの人とは明らかに違う雰囲気の人が立っていた。
 
「生野さん?」

 頭の中で生野さんに話しかけた。

「……」

 答えてくれなかったが、こちらを見てかすかに微笑んでくれた。

「生野さん、短い時間でしたが、ありがとうございました」

 そう伝えると私の方に一直線に向かってきた。

「……」

 肩に手を置いた感触が伝わってきた。

「かおるちゃん、真一さんの最期を看取ってくれてありがとう……」

「ゆいちゃん?
 いや、結衣さんかな?」

「どちらでもいいよ。かおるちゃんが思っているとおり、どちらも同じ私だから」

「やっぱりそうだったんだよね。
 だから私は生野さんと縁があって、旅立つ前に会って話したんだよね」

「ううん。それは違うよ」

「え? それってもしかして……」

「私は覚えていなかったんだ。それは真一さんもそうだって」

「それじゃあ、すべて偶然っていうこと?」

「偶然じゃないかもしれないけど、私たち二人は知らなかった。
 覚えていなかった。
 ねえ、真一さん」

「ああ。今の状態になって、ようやく記憶が蘇ってきたが、四条さんと会って話すことは覚えていなかった」

「そんなことってあるのかな?」

「二人とも知らないのはおかしいね。でも、私たちも大きなものの一部だから、大きなものが意図した出来事だったのかもしれないね」

「そっかあ。二人の魂以外にもあるかもしれないね。
 もしかしたら、お兄さんだった人も関係していたりして……」 

「そうかもね」

「ああ、あいつのことだから今回も繋げてくれたのかもな」

「もしそうだったら、私も三人の繋がりの一つになれて嬉しいです」

「ありがとう」

 ゆいちゃんと生野さんの重なった言葉に、体中が温かいものに包まれて、優しい気持ちになった。

いいなと思ったら応援しよう!

akira
サポートしていただいたものは今後の制作活動に使わせていただきますので、サポートもしていただけましたら嬉しいです。