界のカケラ 〜103〜
「優しい方だったのですね……
私は親がいなくて、小さい頃から養護施設にいたので、そういう思い出がないから羨ましいです」
「施設の先生も優しかったのではないですか?」
「優しいかと言われると優しかったです。ただ私が知る先生は、どこか憐れみというか同情という感じがした優しさ。親がいないからかわいそうな子というレッテルを貼っていて、それが私には受け入れがたいものがありました」
「それは私でもそうなっていたかもしれません」
「でも実際のところは、そういう子もいたし、そうでない子もいました。でもある時に気づくんですよ。いつかこの施設を出ていく日がくるのを。その日が来る前にきちんと準備をしているかそうでないかで人生が決まってしまうと私は思っていたんです」
「確か十八歳まででしたね」
「はい、よくご存知で。だからその日が来るまでに自立し、一人で生きていけるように計画を立てていました。中学を出たら働く子もいましたけど、私は頑張って特待生で高校に入学して、三年間ずっと特待生でいられるように頑張りました。特待生であれば入学金も授業料も全て免除ですから金銭的な負担なく学業に専念出来ました。在学中も大学へ行くためにアルバイトをしていたので大変でしたけどね」
「三年間も特待生でいるなんてすごいですね! ちなみにどこの高校だったんですか?」
「私立N高校です」
「え! 私も同じですよ。
日向さんは私の先輩になるんですね!
こんな偶然あるんですね!」
「先生もですか! 世の中狭いですね!」
「よくあの厳しい進学校で三年間も特待生出来ましたね。私は二年間は維持できましたけど、三年目は無理でした」
「辛かったですよ。並大抵の努力では上にも上がれないし、維持もできませんし。
それに嫌がらせも受けましたしね。『なんで養護施設にいるやつが特待生なんだ』って」
「完全な言いがかりですよね。悔しかったら自分も頑張ればいいだけなのに」
「本当にそうですよね。でもそれがあったから余計に燃えましたけどね」
「負けず嫌いというか、負けん気が強いんですね」
「境遇と環境のせいですかね。ふふふ」
「強くなければ生きていけなかったのですね」
「ええ。強く生きていくしかなかった。
境遇のせいで不幸な子、かわいそうな子と言われるのが嫌でした。
大人になれば変わると思いましたが、全然変わりませんでした。就職ではそれだけで落とされたり、哀れみの目で見られたり。就職できてもセクハラを受けやすかったりしました」
「そんな……」
「そんなものですよ。それに施設出身ということが知られると、急に態度が変わることを何度も経験しました。結局、居づらくなって転職を繰り返しました」
彼女の話を聞くにつれて、胸が締め付けられる思いだった。
境遇や環境の違いだけで理不尽な思いをたくさんしてきたのだろう。どうして人は自分とは違う境遇や環境ということだけで、自分の方が上であるとか、優位に立てそうだと勘違いするのだろうか。私には理解できない。 いや、理解もしたくない。
必死で生きてきた分、彼女のような人は心が強く、豊かであると思う。こうして話していても相手を気遣う様子が随所に見られる。私はいまでは怖さを感じていない。その代わりに友情に近いものが生まれてきていた。