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界のカケラ 〜80〜

 「深海さんは今日、出勤ですか?」
 
 「いえ。今日は夜勤明けですぐ帰る予定だったんですけど、一人体調不良でシフトの前半を変わってほしいと言われてしまい、正午過ぎまで残業みたいになってしまいました。そのあとに四条先生を探していたので、きっとそれが原因でベッドに寝てしまったんですね・・・」

 「労働基準法に反している働き方ですね」

 「看護師の仕事は好きですけど、休憩時間入れても十五時間勤務は体に堪えますね。でも今日明日休みですし、今日働いた分は来月までは時間調整してくれるというので、遊びの時間を早めるために使う予定です」

 「それがいいですね。働きすぎて体を壊したら好きな仕事でも出来なくなるし、適度に遊んでリフレッシュしたほうが健康にいいですし。何より看護師が元気がなかったら病院に来る方達が不安がって治る病気や怪我も治りが悪くなっちゃいますから」

 「そうなんです! だからいつも元気でいるように心がけています!」

 「ふふふ。そんな感じだと思いました。異動して三日くらいなのに、すっかり自分のペースになったみたいですね」

 「はい。皆さんいい方ばかりで異動してきたことさえ忘れてしまうようなホーム感でとても働きやすいです。前の病院もそうでしたけど、それ以上です」

 「院長にはお会いできました?」
 
 「それがまだなのです。一度お会いしたいとは思っているのですが、中々見かけないのです」

 「そうか、まだなのですね。院長がこの病院の雰囲気のような人なんですよ。だからそういう雰囲気な人っていうニュアンスで覚えておいてください。結構な頻度で中庭の草むしりや作業とかしてますから、そのうち会えますよ」

 「そんなことまでしているのですか?」
 
 「私も最初は驚きましたけど、庭作業中に話をする機会があってその理由を伺ってみたのです。そうしたら庭作業していると心が落ち着いて良いアイデアが生まれるのだそうです。それに病院にくる方の話が耳に入ってくることで改善点もわかるから一石三鳥、四鳥だとおっしゃっていましたよ」

 「なんだか病院の院長というイメージが良い意味で崩れますね」

 「院長というより、庭の管理人っていう方が似合ってますからね。あ、これは内緒で」

 「もちろんです! 私も早く院長に会って、お話ししたいな」

 「まあ、すぐにでもできますよ。いつの間にか庭作業していたりしますから。廊下の窓から覗いて庭の草木をいじっていたら話しかけてみてください」

 コンコン。夕食を配膳する方がドアをゆっくり開けた。

 「四条さん、夕食をお持ちしましたので、机の用意をお願いします」

 「はい、いつもありがとうございます」
 
 「では、夕食の時間なのでお暇しますね」
 
 「最初の印象は悪かったですけど、こんなに楽しく話せて良かったです。今度はちゃんとしたときに会いましょうね」

 「はい。先ほどは申し訳ありませんでした。私もたくさん話せて楽しかったです!」

 「帰りは歩き?車?」

 「歩いて帰ります。ここから二〇分くらいのところに引っ越したので」

 「二十分も? バスとか自転車とか、車とか使った方が良いんじゃないですか?」

 「私、小さい頃から乗り物に弱くて少しの時間でも乗っていられないので、運転ももちろんできません」

 「酔い止めを飲んでも?」

 「はい。飲んでも酔ってしまって。そのせいで乗り物に乗っていく学校行事は全部休んだくらいです」

 「そんなに酔う人っているのですね、珍しい」

 「世の中にはいるのですよ。だから近場でしか遊べなくて辛かったです。でもそのおかげか遊びに行くときは二時間くらいは普通に疲れずに歩けますし、歩く速さも早くなりました。その結果、体力が普通の人よりついて今に役立ってます」

 「まさに看護師になるべく必要な体力を小さい頃からつけたってことか。役に立って良かったですね」

 「今となってはですけどね。それでは失礼します」

 「ごめんなさい。帰り際にさらに引き止めてしまって。気をつけて帰ってくださいね」

 私はそう言いながら、リモコンに手を伸ばし、彼女がドアを出るタイミングでテレビをつけた。


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akira
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