界のカケラ 〜109〜
「日向さん。少し引っかかるところがあるのですけど……」
「はい、なんでしょう?」
「日向さんを最初に見つけたのは義理の母でしたけど、同居されているのですか?」
「いえ。同居はしていません。
家も近いというわけではありません。電車で一時間半くらいです」
「私が治療した時の状況を思い出してみると、首を深く切った怪我にしては重症でしたが、深刻な状態ではありませんでした。
何かそのことに心当たりはありませんか?」
「そのことでした聞い……」
コンコン……
ドアを叩く音が彼女の言葉を遮った。
「あれ? 誰だろう? まだ昼食の時間でもないし。
話されている途中ですけど確認してきますね。すみません」
急に立ち上がったので立ちくらみとかるい頭痛がしてふらついて、テーブルに右の太ももがぶつかってしまった。
「大丈夫ですか? 少し顔色が悪いように見えますけど」
「急に立ち上がったので立ちくらみを起こしただけです。もう治りましたので大丈夫です」
まださっきの頭痛と意識をなくしたことの後遺症が残っているようだった。幸いにもすぐに治ったので、先ほどのようにはならずに済んだ。
足元は少しふらついているけれど、足に力を入れていれば歩けそうだ。足に意識を集中させて、ドアの方へ向かって行った。
ドアを開けたら知らない初老の女性が立っていた。
「すみませんが、どちら様でしょうか?」
「日向と申します。日向 楓の義理の母です。
楓さんが来られていると伺って、こちらに参りました」
「はい。私が無理やり連れてきてしまいました。普通ならこんなことをしないのですが、諸々の事情がありまして……」
「あ、そうですよね。
遅れましたが、四条先生、その節は申し訳ありませんでした」
「はい。ですが、もう治りましたので、それ以上お気になさらないでください。
ここではなんですから、一緒にお茶でもどうですか?
ちょうどお母様にも伺いたいことがあるのです」
「はい。分かりました。
では少しだけお邪魔いたします。」
「ありがとうございます。
今、椅子と飲み物の準備をしますので、部屋に入ってお待ちください。
飲み物は紅茶かお茶があるのですが、どちらがお好みですか?」
「ありがとうございます。それではお茶でお願いします」
「はい。承知しました」
予備の椅子がないので、自分が座っていた椅子をお母様に譲り、ベッドに正対するように配置した。
「ではお母様はこちらにどうぞ。
予備の椅子がないので、失礼になりますがベッドに腰掛ける形にしますね」
「私なら座らなくても構いませんよ」
「いえ、お客様ですから。遠慮なさらずにおかけください。少し話が長くなるかもしれませんし。ゆっくりと話を伺いたいですから」
「そうですか……
では使わせていただきます」
「はい。どうぞ」
楓さんの隣に座るような配置になってしまった。そのせいか気まずそうな雰囲気を醸し出していた。あの現場と状況から、まだゆっくりと二人で話をしていないのではないだろうか。お互いに気まずそうな感じでいるから、このタイミングで二人がいるのも何かあるのかもしれない。変に話を促すようなことはしないで、自然な流れで二人の気まずさやわだかまりをなくせれば良いなと思えた。