界のカケラ 〜91〜
これで十五回目。躊躇いと恐怖でとうとう両手では数えきれなくなったが、それもこれで終わり。もし次来ることがあったら、その時はこんな感情ではなくて、明るい気持ちで来ることができるようにしよう。そのために今やるべきことをやる。
私は今まで開けられなかったドアをゆっくりと左に引いた。
キィーと高い音を立てながら一人分が入れるスペースまで引いた。音が室内だけでなく、廊下にも響いているように感じた。神経がそれほどまで高ぶっているのだろう。緊張で足がすくみそうなのを何とか堪えていたが、まだ頭を上げられないでいた。しかも左手に掴んだドアノブを離せず、その手には汗がにじみ出てきていた。
個室ではない四人部屋なので、おそらく四人全員の視線が私に向いていることだろう。それは分かっているのに下を向いて立ち尽くしている私は情けない。
「足よ、動いてくれ。そして頭よ、上がってくれ」
心の中で繰り返し唱えていた。それでも思うように動かないほど、心の中ではまだ抵抗しているものがあったことに初めて気づいた。しかしこれで引き下がるような真似はしたくはない。どうにかして動き出したかったが、金縛り状態の前では鬼に金棒。全く動けないでいた。
あまりの不甲斐なさと情けなさに泣きそうになった。だが、泣いて済むことではないので必死にこらえていた。
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