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界のカケラ 〜36〜

「はぁ・・・はぁ・・・」

まだ落ち着きを取り戻していないので、私はまだ様子を伺っていた。

隣にいる生野さんも市ヶ谷さんの大きな声に反応し、市ヶ谷さんを落ち着かせるように、いつもの優しい口調で話しかけた。

「市ヶ谷さんと申しましたね。私は生野と申します。」

「生野さん・・・申し訳ありません。つい興奮してしまい大きな声を出してしまいました。」

「いいんですよ。私も同じようなことを経験しましたから。私は時代が時代でしたから自分が生き残るためとはいえ、人を殺した立場にあります。それまで私は今まで生きるということに真面目に向き合ってこなかった。ですが、戦地で人を殺し、いつ殺されるかわからない状況で、ようやく生きる目的を見つけることができました。」

「それは何ですか?」

私と市ヶ谷さんはほぼ同時に聞き返した。

「私の場合は、赤橋が守ってくれたこの命を大事にし、人の役に立つことをする。
とりわけ自分が大切にしたいもの、赤橋が大切にしていたものは何に変えても大切にすることを生きる目的にすることでした。
私には自分の命の他に、赤橋の命も背負っている。だから私は赤橋に恥じない生き方をしようと心がけた。

まあ、これは時代背景があるからそう思うようになったのだと思っている。今の時代だったら私は今の私の生きる目的を持てるかはわからない。むしろ持てないと思うことの方が大きい。それくらい今の世の中は生と死の境目を意識するような環境ではなくなっているからだ。」

「確かにそうですね。私はたまたま医者として生死の境目を身近に感じていますが、あくまでこれは他人のもの。自分の生死の境目には立ったことがありません。」

「逆にいえば、それが生きている証拠でもあるのだよ。ただな、多くの人はそれが生きていることの証拠だというのをわかっていない。なぜ生きている実感がないのかというと私は死を意識したことがないからだと思っているよ。だからそれを意識するために動物を殺したり人を殺したりする衝動に駆られる。ではなぜ自分を殺さないかというと生きている証拠に出会いたくないからなんだよ。」

「それはどういうことなのですか?」

市ヶ谷さんは少し戸惑い気味に生野さんに聞いた。

「彼ら、彼女らは生に対して執着をしているようでしていない。要は、生も死も曖昧なままなのだ。

だから他の生き物を使って生に対しての執着を確かめているに過ぎない。決して死を見たい、感じたいという感情だけではないものがあるのだと思うよ。」

私は生野さんの口から発せられる言葉が、あの日のことからずっと考えている疑問の答えに少し近づいているように感じた。

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akira
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