界のカケラ 〜113〜

「だけなんだって……
 ゆいちゃんって、たまに淡白になるよね」

「魂なんて、みんなそういうものだよ。自分の課題をクリアするために人の体を持って生まれて、いろいろな経験をしていく。そのために淡白なくらいの方が吸収しやすいからね。

 それに魂が意思を持ちすぎてしまうと、人の体は不完全さに拍車がかかって周りとうまくいかないことが多いから。たまにいるでしょ? 人間らしくない人」

「いることはいるけど。それって育ってきた環境のせいかと思ってた」

「それだけじゃないっていうことだね。
 まあ、それもそういう魂として生まれてきただけ。全体の中の一部にしかすぎないし、そういった魂と響き合う魂もちゃんとあるから上手く出来ているよね」

「ゆいちゃんがそれを言っちゃうか……」

「言っちゃいけない決まりはないからね」

「言っちゃいけない決まりと言えば、さっきのことは私に言って良かったの?」

「私もそう思ったんだけど、あの三人は私のことを知っていて、最初から何かしら接点を持つように約束していたらしいんだ。私は覚えてないんだけどね。
 でも三人ともいつ接点を持つようにするかは決めていないし、知らなかったんだ」

「ああ、魂が決めていたり決めていなかったりっていうやつね」

「それってね、きっと魂が全てタイミングもやることも決めてしまうと、魂だけで話が済んでしまって新しいことが入りにくくなっちゃうからだと思うんだ。だから魂でさえも決められない、覚えていないようなものがあるんじゃないかな」

「それは私たちの魂が選んだ体と縁に任せるっていうことなのかな」

「たぶんそうだろうね。
 でも何かあった時、手助けできるように私たち魂は思い出せるようになっていて、魂同士で連携していくことが出来る。今回のようにね」

「そっかあ……
 それなら今回のことも全て辻褄があうような気がしてきた」

「かおるちゃんは痛い思いをしちゃったけどね」

「まあね。床に思いっきり頭を打ったときの痛みは、もう経験したくない。

 でも、忙しくて体を限界まで酷使していたから、いい休養だったと思うよ。頭痛はまだたまにするけど、それも次第に治るはずだしね」

「そうだね。かおるちゃんが痛い思いをしているときは、私にも痛みは感じるからなるべく怪我しないようにね」

「やっぱり痛がるんだ。魂と体は繋がっているからかな」

「うん」

「あれ? ということは、頭痛が治ってしまったら、ゆいちゃんとはもう会えないっていうこと? 話せないっていうこと?」

「たぶん、そうなるだろうね。
 私はずっとこうやって話していられるか、決めた覚えないし」

「そんなの嫌だよ!
 だって昔一緒に遊んで、またこうやって会えたのに……」

「私だって…… そうだよ……」

「……」

「でも、話せるかもしれないよ。
 私が覚えていないだけで、本当はこれからずっと話せるかもしれないことだって可能性としてはあるよ。だからそんなに悲しまないで」

「無理だよ…… そんなの……」

「たとえ話せなくなったとしても、私はいつもかおるちゃんの一番そばにいるよ。話しかけてくれれば、私には聞こえるから。私の声は届かないかもしれないけれど、どう感じているかは分かるはずだから」

「それでも……」

「それで良いんだよ。

 私はまたかおるちゃんと話せて嬉しかった。かおるちゃんのために動いている自分が好きだった。それはこれからも変わらないよ。

 いつか私の声が聞こえなくなっても、かおるちゃんのためなら出来ることはなんでもすることを約束するね」

「良くないよ……」

「ふふふ……」

「なんで笑っているの?」

「その感じが小さい頃と全く変わってないなって」

「私こんな感じだった?」

「うん。覚えていないだろうけど、一日の遊びの終わりに、もっと遊びたいって駄々こねたときと同じ。必死に『まだ遊ぶ! 遊び足りないよ!』って。

 そんな姿が可愛くてしょうがなかった。だからわざと遊ぶのを早めに切り上げたりしてた」

「意地悪だな…… 本当にもう……」

「でもね、私のような魂が人の行動を決めていたら、かおるちゃんって何なんだろうね。

 もう一人の私?
 私の操り人形?
 私が夢で作った存在?」

「……」

「違うでしょ。かおるちゃんはかおるちゃんなんだよ。
 
 『かおる』という呼び方をもらって、『薫』という字をもらった一人の女性。それがあなたなんだよ。

 魂は私だけれど、私は『薫』になりたくて、その名前を選んだ核でしかないんだよ。

 今までたくさんの経験をして、数えるのも難しいくらいたくさんの人に会って、いろいろなことを感じてきたのは、紛れもなく『薫』なんだ。

 だからかおるちゃんがいるということは、私、ゆいがいることと同じ。私の声が聞こえなくなっても、会えなくなっても、かおるちゃんがかおるちゃんでいれば、私はずっとそばにいると感じられるんだよ。

 かおるちゃんが幸せなら、ゆいも幸せ。それで良いんだよ」

「そう…… だね……

 いつまでもこんな感じじゃあ、ゆいちゃんも悲しくなっちゃうよね」

「それもかおるちゃんの良いところだよ。これからも肝心な部分は変わらないでいてね。もし悪い方向に行っちゃうときは化けて出てくるからね」

「ゆいちゃんに会えるなら、それも良いかな…… なんてね」

「そのときは強制的に正すからね。ふふふ……」

「なんだか不思議とスッキリした気持ちになった。ありがとうね。

 ゆいちゃんと会えなくなるときが来ても、私は私らしく生きていくよ。ゆいちゃんに恥じないようにまっすぐに生きて、医者の仕事を全うして、救える命を救っていく。

 だから私が最期を迎える時は、また会いにくると約束して」

「うん。約束する。
 絶対に最期の時は迎えに行く。なんなら一ヶ月前とか、一年くらい前から会いに行く!」

「もしかしてこれも前もって決めているのかな」

「どうだろうね」

「まあ、それはその時にしかわからないか」

「うん。私からはどっちにしても話せないことも多くあるから」

「そうだよね。全部知っちゃたら人生つまらないし」

「うん。かおるちゃん自身で人生を楽しんできて。

 それじゃあ、そろそろそっちの二人がかおるちゃんが寝ているのに気づきそうだから、一旦お別れしなきゃね」

「あれ? 時間って経ってないの?」

「うん、時間の概念ないし、ここ」

「なんとなく、そんな気はしてた」

「分かるもんだね。じゃあ、今度こそお別れだね」

「うん、ありがとう」

「こちらこそ。

 あ、そうそう。ここで話したことはそっちの二人には話しちゃだめだからね。不思議なことは不思議なこととして終わらせておいたほうが良いこともあるから」

「ちなみに話すとどうなるの?」

「変な人に思われるとか、かおるちゃんに亡くなった人のこととか聞いてきて、依存体質を作らせてしまうとか」

「結構、現実的だね」

「そこはね…… 見えないものにたまに頼るのは良いけど、依存するまでは行き過ぎだから。どんな魂も依存は求めていない。自分の足で立って、自分の目で見て確かめていくことで魂は成長していける。魂も一回一回生まれ変わるたびに成長しないと、吸収されたまま消えてしまうから」

「そっかあ…… ゆいちゃんが成長できるように私も成長していくね」

「ありがとう。
 でもかおるちゃんが幸せになることが、私の一番の成長のタネだからね。それはいつも覚えておいてね」

「分かった! 一生覚えておく」

「それじゃあね、かおるちゃん」

「うん、ゆいちゃん。また会おうね」

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akira
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