界のカケラ 〜32〜
「私が入院してからは一度も会ったことがないなー」
「ということは入院前に会ったのかなー」
「救急搬送ではなくて、通常入院で入院した方なのかなー」
私は色々思い出しては、記憶と照らし合わせていった。
「うーん。やはり思い出せない。こうなったら失礼を覚悟で話を聞いてみるか。」
私はいつからこんなお節介になったのだろう。しかも失礼極まりない行動だ。ただ私は生野さんの話を伺ってきて、少し人に対して積極的になっている状態だった。ちょうど、仕事などで褒められたときやいいことがあったときに、その調子で次の仕事やできる私風に同僚や後輩に接するように調子に乗っている感じだ。病院でそれをやる人はほぼいないと言っていいが、なぜか私はその男の人に興味が湧きすぎてしまっていた。
もはやどこにでもいる近所のおばさまのお節介である。関西でいえば飴ちゃんをくれる人だ。しかし私はまだ28歳でアラサーだけども、おばさんという年齢ではない。そう言い聞かせて私は勇気を出す必要もなく、自然と男の人に話しかけた。
「あの・・・」
私が話しかけようとしたタイミングで男の人は私の方を向いてきた。
私は一瞬、ギョッとしたが、逆に気づいてもらえてよかった気がする。
「あ、すみません。なぜ泣かれているのかと思って・・・
もしよろしければお話を聞かせていただけますか?」
「すみません。大の大人の男がベンチに一人座って泣いているなんて変ですよね」
男の人は声に覇気がなく、今にも死にたがっているような感じで答えた。
「いえいえ。そんなことはありません。人にはそれぞれ事情がありますから」
普通こんな時は声のトーンを落としたりするのだろうが、私は普段以上に声のトーンをあげて答えてしまった。さっきの不思議な体験をしてしまった影響なのだろうか。少し自分が恥ずかしく、申し訳ない気持ちになった。