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ほどほどに、私は

ただいまぁ

おっと、旦那が帰ってきた
まだ19時じゃん
ずいぶんお早いお帰りで

今日は悪天候で、外は猛吹雪
こういう日は車が渋滞するから
あと1時間くらいは遅いかなって
思っていたわけで

おかえりなさーい

長男がすかさず父の帰還に反応する

おかえりー

次は長女、2人とももう中学生なのに
旦那にはずいぶん愛想がいい
旦那、幸せだろうねぇ

お帰りなさい

最後に私、この後、他に誰かいないものかしら
地縛霊とか、地縛霊とか

地縛霊とか

旦那はそのままリビング横の寝室に向かい
グレイのスエットに着替えてきた

駐車場のドア、雪で閉まらなくなっててさ
あれ、早めになんとかしないと
どんどん雪が積もるぞ

旦那が言ってるのは
駐車場とマンションの出入り口のことだろう

あそこの出入り口は高層棟でしょ?
うち低層棟じゃないの

私はどうでもいい縄張り意識で
適当な返事をした

早く言った方がいいな
この吹雪だと時間の問題だ

もはや旦那は私の話など聞いてない
いやいつも私の話は聞いちゃいない
きっとこの吹雪でドアがどんどん閉まらなくなり
みんなが困ったな、となるのを想像してるのだろう
その背中が自ら雪かきに行くとか
言い出しかねない雰囲気を醸し出してる

すると旦那はスマホを取り出し

あ、302号の◯◯です
高層棟側の駐車場への出入り口のドア
雪が積もって閉まらなくなってました

あ、管理センターに電話したんだ

誰かが言うだろ、誰かが言うだろと
みんながそう思って
誰もが黙っているものとばかり思っていた

その誰かが、まさかこんな身近にいたなんて
(笑)
こうやって日本はそれとなく平和に暮らせるわけか

ありがとう、日本人

旦那は管理人に要件を的確に説明すると
さっさと電話を切り
リビングの茶箪笥の上にある鳥カゴに向かった

ハナ、水浴びだよ

んまぁ、そんな優しい声がけ
私はされたことがないですけれど

旦那を確認するやいなや
文鳥のハナちゃんは喜んで羽をバタつかせる
旦那が鳥かごの出入り口を開けると
ハナちゃんはバタバタバタバタと羽をはためかせ
洗面所まで一目散に飛んでいった
そしてハナちゃんの後を追う旦那
洗面台に水をはるのだ

ちゃんと洗面台がどこにあるか
理解しているのだから
あんな小さい頭で、大したものだ

ハナちゃんが優雅に水浴びを楽しんでいるうちに
旦那は長男の部屋に行く
部活の話でもしてたのか
次は長女の部屋に行く
長女の方はちゃんとノックしてるのが

ウケる

怖いのだ、色々と

そして私は、夕飯を並べ
温め直すものを温めていた
今日はミートグラタンとスープ
そして、玉ねぎのサラダ

もちろん、ミートソースは手作りだし
旦那も子供たちも好物なので
喜ばれることは間違いない

あ、そうだ明日長男がスキー学習だから
忘れないうちにタオル渡しておかなきゃ
スープの火を小さくして
私は洗面所に向かった

洗面台で大喜びのハナちゃんが可愛くて
ハナちゃーん、と顔を近づけて声をかけてみたら

ギリリリリリグググググ

ハナちゃんは
口を開けられるだけ開けて
あろうことか私を威嚇してきた

今さっきまであんなに嬉しそうだったのに
いつも綺麗な声で鳴くのに
私を見るやいなや
こんな恐ろしい声を出すものなのかと
毎回、驚いてしまう

私はハナちゃんに嫌われている

そんなことは知っている
飼った日、初対面からなぜか威嚇の対象だった
旦那の友人宅に遊びに行った時は
友人の愛犬にも威嚇され続けた

そう、私は知っている

動物は、私のことが嫌い

まぁ私もそんなにあなたたちが好きじゃないから
それでいい、嫌ってくれても構わない

なので

私はハナちゃんの世話を一切しない
旦那がせっせと世話をするので
とっても楽だ

ごめんねハナちゃん
もう近づかないから、勝手にやってね

タオルタオルと

乾燥機にかけたフワフワのタオルを
2組手に取ると、早々に洗面所を後にした

ごちそうさまぁ

みんなミートグラタンに大満足なようだ
、、、ようだ、とは
誰1人として食べた感想を言わないので
私は表情から察することにしている

ここは聞くところではない
マズい、とか、まぁまぁ、とか
その類は、直に聞くとダメージが大きいからだ

なので、私は察する
家族は、満足してると

またかろうじて
まだ家族全員で食事ができているのも嬉しい
旦那の愛が、2人を繋いでいるのだ
後片付けが、大変楽だ
旦那の大いなる愛に包まれて
私は後片付けを楽できている

さて

マンションのドアを心配し
ハナちゃんを水浴びさせ
長男に今日の出来事を聞き
長女のドアをノックする

夕飯が終わったが
私の番は回ってきていない

結婚しよう
幸せにするよ
あの言葉たちは、私の妄想だったのだろうか

でも、私はそれでも大して構わない
先日、私の結婚指輪がないことに気づいてしまった
おあいこ、としておこう

夜は家族で
フジテレビの記者会見を見ていた

子供達は、これの何が面白いの?と
早々に自分の部屋に引っ込んでしまった

今の子は、どこまでも自分ファーストで
周りもそれを容認しているから
他人を責め立てる、と言うことに慣れていない

すごく意地悪で居心地の悪いテレビだ
そんな感じなのだろうと思った

旦那はというと
普段から芸能ネタに全く興味を示さないが
事が事だけに、驚愕していた

な、な、何があったんだ!?

え、、、今日知ったの?(怖)

私からすると、どこをどうやって
昨年末からこの話題をすり抜けられたのか
そっちの方が驚愕だ

中居くんが性加害者で
フジのアナウンサーに手を出しちゃったの
もしかしたら、フジが斡旋してたんじゃないかって
大問題に発展してるのよ

かいつまんで、旦那の横顔に説明してみたが
途中で記者たちの怒号にかき消されてしまった

旦那は画面をじーっと見ている
まぁ、どうせ私が話してることすら
気がついていないだろう

2時間近くあと、画面に食いついていた旦那は
ようやっと事情を把握できたようだった

もう11時半

私だって記者会見を聞きたいのは山々だが
こんなに遅くなるなんて思ってもいなかったし
明日は長男の弁当を作らなきゃならないので
寝てしまいたかった

ごめん、テレビ消してくれない?
怒号がうるさくて、眠れないんだけど

総合的な検討の結果として寝る選択をした私は
旦那に言ってみた

テレビ、うるさいから消してくれない?

明日になれば、どの局も
この会見を話題にするのだから
いつ終わるのか分からないものを
見続ける必要性はそんなに高くないだろ

私は、そう思ったのだ

だから、あのぉー

テレビを消してもらえますか

だが旦那は、テレビに集中しすぎて
私の声は全く届かなかった
まぁ、いつものことだ

もういい

怒る気力もなく寝室のドアをピシャッと閉めて
私は布団に潜りこんだ
そう、思いのほか私は寝つきがいい
初めからこうすればよかったのだ

ん?

んんん?

な、なに?

寝室のドアが開いて
リビングの灯りが差し込めている

旦那が私をゆすって起こしてくるのだ

なによ、なしたの

眉間に皺を寄せながら、何事かと
私は尋ねた
私の寝起きの声は、おじさんみたいだな、と
そんな呑気なことまで考えてしまった

ねぇ、この記者会見
誰のために行なっているの?

全く悪びれた風もなく
逆さ向きの旦那の顔が私に言った

えええ?

えええええ?

えええええええええええ?

私は体を半分起こし
青黒くぼやけた旦那をまぢまぢと見つめ


寝 て た のよ
ぐっ す りと

オマエはバカか?
人良さそうなフリしてサイコパスなのか
ぐっすり寝ていたことも分からないバカなのか

さすがに私はイラっとした

旦那は、コイツに聞いても無駄かとばかりに
ふーん、みたいな返事して
洗面所に向かっていった

1時半

勘弁してよ
しかも、旦那が今日私に話しかけてきたの
初めてじゃん
ここで、私の番かよ

寝ぼけながらもそこまで頭がまわったが
私も私で

そのまま眠りにつけた

そう、そのくらいでいいのだ
私は




最後に爆笑動画を、どぞ

じゃーねー

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