前鬼 小仲坊(おなかぼう) 鬼が営む鬼の里の宿坊
静岡生まれの私が、関西で生活をして感じた事の一つは修験道が身近な事です。子供のころに、昔ばなしや教科書などで開祖の役行者に親しみ、小角さんと親しみを込めて呼んでいます。役行者は奈良時代の人物ですが、従者の前鬼・後鬼夫婦の61代目という方が、今でも鬼を称して従者の仕事を 守っておられます。役行者が拓いた大峯奥駈道を修行する修験者のための 鬼が営む不思議な宿坊が、前鬼(地名にもなっています)の小仲坊です。
私は、大峯奥駈道の縦走ため2回訪れていますが、1回目の2019年 に宿坊に泊めさせて頂いて、鬼のご夫婦とお話しさせてもらいました。
1 小仲坊へのアプローチ
小仲坊へは、奈良県を南北に貫いて走る一日一往復のバスが頼りです。最寄りの前鬼口停留場で降ります。
交通標識には「前鬼登山口 10km」とありますが、ここから林道歩き 3時間となります。マイカーでも走れる道ですが、縦走登山では歩かなければなりません。
熊野川の支流の前鬼川沿いの道を遡って歩きます。前鬼川の上流は沢登りの名コースと言われ、前鬼ブルーと呼ばれる美しい水で知られています。
林道や遊歩道を歩いていても、目を奪われます。
2 前鬼に到着
林道の終点から、耕作地だったと思われる石垣の間を、いくつも縫いながらて登って行きます。前鬼・後鬼の子供は5人いて、五軒の宿坊があったとお聞きしました。
登り詰めると、小仲坊の宿泊所です。宿泊所は常時開放している素泊まり用で、他に予約が必要な宿坊、テント場、倉庫、行者堂などが並んでいて ずいぶん広いです。
こんな山奥にもかかわらず、どの施設も整理・整頓され美しく清掃されています。信仰の深さを感じます。
前鬼に着いた頃から、薪割りの音が、山中に心地よく響いていました。
修行をしたいと申し出てきた方を預かっているとお聞きしました。鬼の ご夫婦は、大阪に住まわれていて、予約のある休日を中心にこちらに来られているとの事なので、ほとんど一人で宿坊全体のお世話をしている事になります。
3 行者堂
施設の中央に、開祖の役行者を祀る行者堂があります。
沓脱石の両側に丁寧に小さなお地蔵様が並べられています。
どのお地蔵さまも、いいお顔をされておられます。
4 宿坊
のんびりしているうちに、日が暮れてきました。
修行の方が吹く、ほら貝の音も聞こえてきました。
宿坊の煙突から炊煙が上がっていました。
奥様の質素ですが、手をかけた夕食を頂きながら61代目を囲み、同宿した自然好きで山小屋巡りを楽しんでいるご夫婦を交えて、楽しくお話をして夜を過ごしました。
5 4年後の春
コロナ禍を挟んで、再び前鬼を訪れました。この時は、一気に稜線まで 上がる計画でしたので宿泊はしませんでした。
前鬼に着くと、たくさんのミツマタの木が花を咲かせていました。
紙漉きを生業としていたであろう山の生活が思い浮かびます。
小仲坊に着くと、しだれ桜が満開でした。
しだれ桜の下を通って宿坊まで水を頂きに行くと、ご夫婦がおられ、お元気そうでした。
ご主人は、白い法衣を着た修験者の方とお話ししていました。
奥様の気を付けての声に送られて、宿坊を後にしました。