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人権ソングに込めた裏の哲学的メッセージ
こんにちは、アートアクティビスとして人権侵害の問題意識の拡散に取り組んでる、N高等学校2年の石川輝と申します。私は、2024年12月10日(世界人権デー)に人権侵害反対ソング「1人にはしない」という自作曲のMVをYouTubeなどのSNSに投稿し、総再生回数約1万回を記録しました。また、ジャーナリストの堀潤さんにもX(旧Twitter)でシェアしていただき、やや反響を得ました。この楽曲は、もちろん直接的にも人権問題を訴えていますが、実はMVや歌詞の裏には哲学的な背景やメッセージ性も意識しながら制作しましたので、今回はその部分について皆さんにお伝えできればと思っています。
歌詞
まずは、歌詞を見ていただきたいです。
【1番の歌詞】
殺戮により血に染まる旗
よく目を覚ませば見えてくる
ただそれを見ているだけにはいかない
遠地で響き渡る悲鳴
よく耳を澄ませば聞こえる
ただそれを聞いてるだけにはいかない
【サビ】
俺たちは微力 だが無力じゃない
世の不条理を正すため立ち上がり声をあげよ
「何も変わらない」なんてことはない
叫ぶ魂は伝わり、移り、やがて衆議となる
【2番の歌詞】
21世紀の歴史を築く
権利なら誰もが保有する
小さな声が今に世界を動かす
地図から君たちを消さない
ために我ら抗い続ける
この痕跡がきっと希望に導く
【サビ】
俺たちは微力 だが無力じゃない
世の不条理を正すため立ち上がり声をあげよ
「何も変わらない」なんてことはない
叫ぶ魂は伝わり、移り、やがて衆議となる
裏の哲学的メッセージ
①凡庸な悪(The Banality of Evil)の批判
皆さんは、凡庸な悪(The Banality of Evil)という言葉は知っていますか?
第2次世界大戦中、ナチスドイツ政権で親衛隊中佐を務めていたアドルフ・アイヒマンという人がいました。彼は、数百万のユダヤ人を強制収容所へ移送するにあたって指揮的役割に担っていましたが、戦後の裁判では「自分の所属する組織の命令に従ったまで」であり「自分の意志ではない」と抗弁し無罪を主張し続けました。ユダヤ人政治哲学者であるハンナ・アーレントは、これを「凡庸な悪(The Banality of Evil)」と名付けました。ここから、歴史上の巨悪の多くは、自分たちの行動を「普通」と受け入れてきた「普通」の人々によって行われてきたと解釈することができます。
私の「1人にはしない」のMVの冒頭では、南アフリカでアパルトヘイト撤廃に尽力した後、白人と黒人の和解に取り組み、ノーベル平和賞を受賞したデズモンド・ムピロ・ツツの「不正義の状況で中立でいるなら、あなたは抑圧者の側につくことを選んだのです。」という言葉を引用しました。これにより、凡庸な悪(The Banality of Evil)を批判し、「複雑な問題だから」「政治的な問題だから」と思考を停止させない重要性を強調しました。また、楽曲の1番の歌詞を見ていただきたいのですが、ここにも「実際に起きてる人権侵害を見て見ぬするわけにはいかない」といったメッセージ性を込めました。
②超人(Superman)へのアンチテーゼ
17世紀から18世紀にかけての科学革命と啓蒙主義の影響で、西洋社会では理性と科学が重視されるようになりました。そんな中、ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェは「神は死んだ(God is dead)」という名言を残し、この言葉は、キリスト教的な価値観が衰退し、人々がもはや神に依存しない時代が来たことを象徴しています。続けて、彼は、キリスト教の道徳(例えば「弱さ」や「謙虚さ」を美徳とするもの)が人間を抑圧するものであると考え、この世界には「超人」(Superman)が必要だと訴えました。超人は、弱さではなく力を重んじ、人生を肯定的に生き抜く存在として理想化されました。ナチスドイツ政権では、その思想を利用し、ニーチェの言う「超人」を「優れた人種」や「アーリア人」の理想像として解釈し、逆にユダヤ人などを「劣等人種」と位置付け、差別を行ってきました。
私の「1人にはしない」のMVでは、神社に祈りを捧げる映像を用いました。これは、もちろん直接的に「平和を願う」という意味もありますが、こういった神聖な場所で祈りを捧げるという行為を、超人(Superman)へのアンチテーゼとしても描きました。
今後も、こういった哲学的な要素も取り入れながら人権を訴える楽曲制作に取り組んでいきたいです。よろしければ、InstagramやYouTube、noteのフォローもよろしくお願いします。