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JR両毛線雑感

宇都宮への旅

11月28日宇都宮で開催されたRDE(Railways Designers Evening)に参加するため、住まいのある高崎から宇都宮に移動する旅のうち、両毛線全線(高崎-小山)を往復乗車して感じたことを記したいと思います。

高崎駅を午前7時過ぎに発車する小山行き電車(211系)に発車2分前ぐらいに乗車しました。全車両着座不可能なロングシートの車内はラッシュというほどの混雑ではなく、ドア数が3ドアでセミクロス、或いは2ドアクロスシートであれば、全員無理なく着座できる程度の混雑率でした。数分前に同じ小山行き電車が発車しているので、おそらく乗車した電車はピーク時に近いのでしょう。発車後、高崎問屋町、井野と停車し、少し乗車する人がいる程度、埼京線や武蔵野線の殺人的混雑とは程遠く、日中の山手線よりも空いている印象です。

新前橋、前橋と、乗換などで降車する人が増えて、伊勢崎では座席に対してほぼ100%ちょっとぐらいの乗車率ですが、ロングシートなので座席数が少ないため、車内の印象は「空いている」という感じです。
桐生駅に到着するとほとんどの人が降車し、車内はガラガラ状態のまま終点の小山まで電車は走り続けました。

小さなテーブル代わりになるスペースがある211系電車

東に向かって走る電車の南側のロングシート端に座っていた私は、ドア部分とのパーテーションが工夫されていて小さなテーブルとして利用可能なスペースが存在します。(これはセミクロスシートの113系や115系からロンングシートに変わったことでニーズに配慮したのではないか?)
そこに買い求めたカフェラテを置いて買ってきたクロワッサンを朝食として食べました。
しかし、ロングシートで朝食を取る違和感というか恥ずかしさは、かつてロングシートと知らずに115系から211系に変わった直後の車両に乗車して高崎線車内で駅弁を広げざるを得なかった私自身の苦い経験もあって、ネガティブな感情を抱いてしまいます。

車内での朝食

今回はある程度そうした状況を想定していたため、クロワッサンを事前に調達してカフェラテと一緒に取り、食後に事前購入したnutella ビスケットを食べれば、スタイルはともかく、少なくとも気分的に豊かな朝食になるのではないか?と妄想していたためです。

クロワッサンに塗ることなど不可能なのでnutellaビスケットを別に用意

計算違いだったのは始発駅の高崎で座れなかったことと、その混雑がどこまで続くのかということが想定できず、着座できた前橋駅で、すぐに朝食を取ってしまったこと。こんなことなら車内が空いた桐生から先で朝食タイムにすべきだったとやや後悔でしたが、一方で暖かいカフェラテが冷めてしまう前に味わいたかった衝動もあり、立っている時から口にしていました。

逆に、この旅の驚くべき利点は車窓の景色にあります。ページトップの画像が車窓から見えた赤城山です。高崎を出発してしばらくは住宅街を走りますが、前橋を過ぎると田園風景が広がり北側の車窓一杯に朝日に照らされた裾野の広い赤城山が窓一面に広がります。

この景色を楽しみながらコーヒーとクロワッサン+nutellaの朝食を食べれる幸せは、両毛線に乗車する「価値」だと感じました。

食事の内容は個々人の好みなので横に置いておきますが、ボソボソと袋につめたクロワッサンを取り出して口にしながら思い出したのは、ドイツに滞在時、1ヶ月に1度程度、当時住まいのあったWeidenからMünchenへ領事館への手続きやら日本食の買い出しなどに列車で出かけた思い出です

DB InterRegioのBistroCafé / パンフレットより

ミュンヘンへはほぼ定期的に往復していたので、毎回同じ午前7時前ごろのInterRegioを使ってWeidenを出発すると、すぐに供食車両のBistroCaféに向かいます。この車両だけは他の2等車と異なり、勤め先のPFAによって改造された車両です。朝食時間帯の車内では、クロワッサンと丸パン、バターとジャム、コーヒーのついた朝食セットが用意されていて、私は必ずこれを注文して、お気に入りの着座位置の高い円形シートに陣取って朝食を取りました。気温の低い時期は、線路に沿って流れるNaab川から気温差で発生する朝霧のモヤの中の草原を走りながら眺める車窓の冬景色は、やや気分が暗くなるのですが、目の前の朝食を車内で食べれる豊かさはそうした憂鬱な気分も、晴れてきます。一方両毛線車内は、そこから観える素晴らしい車窓の景色に比べ、とても残念な車内環境に感じました。

さて、ではここをどうすれば、ドイツで体験できたような豊かな旅ができるのか?と考えると、その問題の原因は車両にあるのは誰でも理解できることです。

理想的な地方ローカル線向け車両とは?

両毛線や上信越線、吾妻線で使われているJR高崎支社管内の211系は、かねてから様々な方から聞く車両の窓の曇り問題も含めて、そろそろ高崎線のお古ではなく路線環境に合った車両を導入しても良いのではないか?と感じます。なぜならまず運行路線の車内の滞在時間が長いこと。首都圏のラッシュ時時混雑解消を開発コンセプトにした211系は、ドア数こそ3ドアですが、短距離移動に適したロングシートでは、乗車人員に対してマッチングが悪いこと。101キロ以上のG車の価格設定を新設した割に、両毛線はグリーン車の設定のないこと。(東京から高崎駅まで105Kmです)

理想を言えば、5両編成程度で混雑時には2編成併結。全車417系のような2ドアセミクロスシートレイアウト。うち1両は半室グリーン車。欲を言えば自販機を設けたスナックコーナーとバリアフリー設備の整った座席とWCをこの半室グリーン車両に集約し編成に組み込めば、私の理想とした両毛線車両にかなり近づけることができます。グリーン車には専務車掌はおらず車載カメラとSuicaで対応、供食は隣接の自販機(コーヒーなどの飲料とペストリーや菓子などスナック類)で調達。

スナックコーナーのイメージは、DB RegioのBpmbkz 291.8 "Snackpoint"がこれに当たります。より素敵なスナックコーナーの空間を持つ車両はスイスのVoralpen Express / SOB車両にあるBistrozoneでしょうか。

SnackPoint / DB Regio

もちろん普通車の利用者にもスナックコーナーは開放し、立食用のテーブルとカウンターを設備し、そこでも自席でも摂れるようにするだけで、移動中の豊かな時間を得ることができます。
両毛線の何よりのご馳走は、車窓の景色です。赤城山が見えなくなっても北側車窓には次々と美しい山々の景色が広がるので観ていて飽きません。

この車窓の景色は両毛線の財産ですし、こうした光景は両毛線に限らず、次世代車両がロングシートと決まった八高線でも、素晴らしい景色の中を走りますし、こうした美しい自然風景は、有名な景勝地を走る路線に限らず、他の多くの地方路線でも観られるのが、約70%が山林を占める日本の国土です。今後、益々増えると予想されるインバウンド需要に応えるためにも折角の財産を無駄にしているような現在の車両運用を視点を変えて見直すと良いと感じました。

おわりに

「レイル」という鉄道趣味誌の創刊号に、かつて国鉄車両設計事務所で数々の車両設計を行った星晃氏が設計に携わったビュフェ車オシ16について執筆された文章には、彼が「大阪出張で定期的に利用した夜行急行に連結されていた同車で必ず大阪寿司(茶巾寿司?)をビュフェ車内で食べるのが楽しみであった」と記されていることからも、この車両のカウンター席で車窓を眺めながら大阪寿司を楽しむ星氏を思い浮かべると、そこには殺伐とした単なる移動ではなく、流れる東京の夜景を観ながらひと時の食べる楽しみを自らがデザインしたビュフェ車で体験し、そして利用者を観察しながら次なるアイデアを思い浮かべていたのだと想像するだけで、「旅の豊かさ」が何であるかを感じてしまいます。



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