暑い日の渋谷で休息を求めて
本屋に入ると想定外に長い時間を過ごしてしまう。目的の本があればそれでいいような気がするが,あれもこれも気になってきてしまうのだ。結局1冊買う予定が,4冊も買って店を出てきた。
夏場の新宿は暑い。本当に困ったところだと思っている。全てがコンクリートに覆われていて,息苦しい。私は渋谷へ移動した。渋谷の方が好きなのだ。
乗り込んだ山手線。新宿の乗り換えは激しい。代々木ではあまり人は降りない。原宿では結構人が降りる。年齢層もバラバラだが若い人が多い。原宿で降りなかった若者は,だいたい渋谷で降りていく。
私が渋谷に降り立つのはこれで何度目だろうか。何度来てもこの街は好きだ。理由はよくわからない。新宿より渋谷の方が断然好きなのだ。いつも寄っている喫茶店トップに今回は行かない。この時間に行ったら確実にタバコの匂いがついてしまう。それはそれでいいのだけれど。
どこに行こうか迷っていた私は,見たことはあるが入ったことのない店を思い出した。「名曲喫茶ライオン」である。渋谷の中でもいかがわしい店が多いエリアを進んでいく。ラブホテルの近く,道が細くなっていて車が通らないところでは,親子がだるまさんがころんだをして遊んでいた。
初めて入る店とは緊張するものである。扉を開けると,薄暗い店内にはじめは目がなれなかった。空いている席に自由に座っていいとのことである。軽く店内を見回す。ここは珍しい。ほとんどの座席は2人がけ,どの席も同じ方向を向いている。向かい合った席は見当たらないのだ。それらの座席の先にあるのは大きなスピーカー。2階まで伸びている。
私は適当な席を選んでコーヒーを頼む。ちょうど15時のコンサートが始まるところであった。店員さんのアナウンスで本日の演目が紹介されて曲が流れ始める。こういった形で音楽を聴くことがなかった。瞬間で音楽の世界に引き込まれる。
私の後にも何組か入店してきた。渋谷の喧騒から,避難してきたような人々だ。私のように1人での入店は少なかった。そのため,店員さんは「当店,会話ができないですがいいですか。」と確認をとる。店の雰囲気を崩さないための大切な確認である。一気に好きになった。
音楽を聴きながら,特に何も考えず静かに過ごしている。本を読んでみる。スマホを見てみる。コーヒーを飲んでみる。店の様子を窺ってみる。ゆっくりと,確実に時間が流れるのを感じる。また来ようと思う。