音楽と私
子どもの頃,祖父の運転する車ではいつもドボルザークの新世界が流れていた。それか,私と妹に向けて童謡のCDをかけていた。それが私が持っている一番古い音楽の記憶。
幼稚園の頃,どんな音楽が流行っていたのかは覚えていない。ただ,どんな音楽でも踊り出していたらしい。父がよく流していたサタデー・ナイトは覚えている。今でもラジオから流れてくると懐かしくなる。「S-A-T-U-R-D-A-Y」と口ずさんでしまう。
小学生になった時,日本にいなかった。どんな音楽を聞いていたのだろう。ちょうどポケットモンスター金・銀の時代。ずっとポケモンをやっていた気もする。ジム戦の音楽なんて,何度も聞いたことだろう。
3年生の終わり頃,日本に帰ってきた。流行りの音楽など全然わからない。音楽以前に芸能人もよくわからない。世間がよくわからない。だって,給食すら初めての経験だったのだから。
我が家はあまり娯楽のない家だった。大学生になって家を出て,その時そう気が付いた。かなり気がつくのが遅い方である。父はテレビに興味がなく,芸能人の名前はほとんどわからない。いつも難しそうな本ばかり読んでいた。母はいつも家のことで忙しそうだった。
5年生ぐらいの頃,テレビでずっとMVを流しているようなチャンネルを見ていた。多分その時初めて宇多田ヒカルを聞いた。その歌手が宇多田ヒカルだと知るのはもっと後になってからだけど。同じぐらいの時,初めてMonkeyMajikの曲を聞いた。西遊記の主題歌だった。この時,香取慎吾の西遊記は全部見ていた。父が中国に詳しかったから。内容は原作の西遊記とはだいぶ違ったけど。
中学生になってiPodを手に入れた。周りがみんな持ってたから。初めての音楽プレーヤー。iPod nano第2世代だ。そんなに音楽なんか聞かないのに。とりあえず昔シンガポールだったか,香港だったかで買ったウルトラマンのCDを入れた。他には特に入れるものがなかった。
また日本を離れることになった。空港で宙船のCDを買った。なんでそこで買ったのか覚えてない。iPodに曲が増えた。
友達に1日iPodを預けた。曲を入れてくれるらしい。そこで私はKREVAに出会った。RHYMESTERに出会った。1,2時間では聞ききれないの曲数になった。私の聴く曲はほとんどヒップホップになった。
高校生になる頃,iPod touchに買い替えた。インターネットの繋がる場所なら世界は無限に広がった。音楽もさぞかし色んなものが聞けたのだろう。いや,まだサブスクなんて広まるまえだ。聴く音楽はそれほど変わらなかった。
AKB48に出会った。テレビの影響だったり,先輩の影響だったり。さまざまなタイミングが重なって,ずっとAKBことを考えている日々になった。ちょうどアルバム「神曲たち」が発売された頃。ずっとそればかり聞いていた。気がつけばどんどんAKBの過去の曲や公演限定の曲など,探して漁って聞いていた。あれから10年以上経って,正直そこまでの魅力がわからなくなった。それでも当時必死に聞いていた曲は懐かしい気持ちにさせてくれる。
大学生になった。東京を離れた。誰も知っている人がいない土地での暮らしが始まった。出会うものが全て新しく感じられた。
よくカラオケに連れて行かれた。みんなんが歌う曲があまりわからなかった。なんとなく聞いたことあるけど,なんの曲で,どこが盛り上がりどころなのか。周りのみんなは全てわかっている風だった。この時自分が”流行り”の音楽に触れてこなかったんだということを実感した。カラオケの中でいろんな曲を覚えていった。だから,いまだに当時知った曲の原曲を聞いてもしっくりこないことがある。
それからというもの,今までの生活に比べたら,膨大な音楽に触れた気がする。関西だったからか,あの大学だったからか,年齢問わず色んな人と仲良くさせてもらった。自然と話題の幅も広がり,音楽の世界も広がっていった。そんなに音楽大好きって感じの私ではなかったけど,それでも。
友達に誘われて色んなサークルの演奏会を見にいった。半分は付き合いみたいなものだけど,そこでちゃんと楽器の音を聞いた気がする。管弦楽団,吹奏楽部,フォークソング,ロック系とかも。
大学卒業して,京都で仕事を始めた。職場までは1時間ちょっと,最寄り駅までが20分ぐらいあった。FMラジオを聴くようになった。私とFM802の出会いである。ロックをよく聴くようになったのかな。ここでまたかなり音楽の幅が広がった気がする。
この頃Spotifyに出会った。世界が無限に広がりすぎてわからなくなった。本当に色々出会わせてもらった。今でも愛用させてもらっている。なくなったら困るもののかなり上位だろう。
時は流れた。あれから7年ぐらいかな。高円寺で路上ライブを聞いた。16歳と20歳の女の子。すごいパワーだった。彼女達と同じ年齢の時の私を思い返した。音楽を全然知らなかった。そんな時代のこと。彼女達はどんな人生を送ってきて,この音楽を表現するようになったのか考えた。かなり音楽との出会いが遅かった感じのする私の想像は及ばない。そろそろ30歳になるけど,あんな表現はどうやったら自分でもできるかわからない。多分できないのがわかってるから感動したんだろうな。