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現場のふりかえりを組織の学び繋げるために奔走している話

私が兼務で所属しているエンジニアリングメンター室では、楽しいエンジニアライフを応援するための取り組みをしています。たとえば、ブログの相談を受けたり、AP Tech Talk という社内の技術雑談イベントを運営したりしています。

今年は「新しい学習体験」を軸にして施策を考えています。具体的には、形式知を学ぶ場だけでなく、暗黙知、実践知を引き出して学びあう場をつくろうとしています。まだまだ企画中ですが、頭の整理のためにまとめます。

※弊社副社長の以下記事の冒頭で触れられている件の詳細です。


既存の学習の場と足りないところ

弊社には AP アカデミーという研修体制が整っていいて、座学やハンズオンを含めた多くのコンテンツがあります。10年以上前になりますが、弊社を転職先の候補にした理由の一つでもあります。

多くの研修を社内のエンジニア自身が内容を考えて、講師を担当します。その過程で、講師側の思考が整理されたり、講師と受講者の繋がりができたりもします。この点は外部の研修では替えがききにくい部分です。

一方で、研修に仕上げる過程で、こぼれおちてしまう重要な知識もあるような気がしています。例えば以下のようなものです。

  • 本人が重要さを認識しているけど形式知化しないもの、できないもの

  • そもそも重要さを認識していないもの

  • 教科書的できれいな内容にしたい心理によって、取り除かれてしまうもの

もっと泥臭かったり、本人は当たり前だと思っているけど他人には新たな重要な学びになったり、そんなものを掘り起こしたいです。

学習の場を整理する

前述のAPアカデミーとの優劣の比較ではではなく、補完関係にある別物があるといいのではと考えました。私は以下の図で整理しました。

学習の場を「暗黙知・形式知「イベント的・日常的」で整理

APアカデミーは右上の「形式知 / イベント的」と位置付けました。時間を決めて、体系的に学習できるのがいいですね。真逆に位置する左下の「暗黙知  / 日常的」は、先輩の作業を見て学ぶようなものをイメージしています。

このように整理すると左上の「暗黙知 / イベント的」と「形式知 / 日常的」が空いています。そこで「暗黙知 / イベント的」のところでどんなやり方があるか考えました。

なお、「日常的」のエリア全般は Slack のような非同期コミュニケーションを促進する別の施策をすすめています。

ふりかえりに着目

「暗黙知 / イベント的」に利きそうなものとして着目したのが、各現場ですでに行われているであろう「ふりかえり」です。

ふりかえりでは、実践を通じて学んだことが、ある程度言語化、形式知化されます。うまくいったことでもいいですし、うまくいかなかったことでもいいです。技術的、エンジニアリング的に学んだことを各現場に留まらせることなく、全社的に展開できれば、新しい学習の場になるなと考えました。

ふりかえりベースにすることで、以下の特性を備えられることを期待しています。

  • 技術の紹介ではなく、自分たちがやったこと、学んだこと、ストーリー

  • 現在系ではなく、主に過去形の話

過去形の話がメインになるので、新しく調べたりする必要はありません。そのため、すでに材料はあるはずです。

「いや、普通に今でもそういうのを発表する場はあるよ」という話もあると思います。テーマを明示化、あえて限定することによって、実践や経験に意識を向きやすくする目的があります。ある意味では、お題だけ出した「ちょっとしたこと」です。何でもいいという自由さでは見つけられなかったものを見つけたいと思っています。

現場の経験は組織の財産でしょう。それを源泉とした内容は、外部研修でも替えが効きにくい部分だと思います。

あとから知りましたが、MIMIGURI 社では「まいに知たんじょうび」という公開リフレクションをされているそうです。恐れ多いですが、コンセプトが近そうです。

なお「ふりかえり」というひらがな表記にしているのは「アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック」の著書、森 一樹さんへのリスペクトの意を込めているためです。

アウトプットの支援

先ほど「すでに材料はあるはずです」と楽観的に書きました。とは言え、発表する側の立場としては「共有するためにいいものを選ばないといけない」「うまくまとめられるか自信がない」という心理もあるかなと思います。

この懸念は確かにあります。しかし、だからこそ、現場に埋もれている価値を発掘するためには攻めていきたいポイントでもあります。

私たちエンジニアリングメンター室はこれまで、ブログや登壇などのエンジニアのアウトプットを中心とした相談に数十件対応してきました。下書きのレビューだけではなく、どのような切り口や立て付けでコンテンツを作っていけばよいかという段階での支援もしてきました。

つまり腕の見せ所です。本人ではなく「支援」という立場だからこそ見える価値、エンジニアだからこそ見える価値を発見して、コンテンツ作りを支援していく予定です。

コンテンツのポイントは今のところ以下のように考えています。

  • 具体的な体験談が含まれる

  • 汎用性、独自性の高い学びへの昇華

発表者にもメリットがあるように

エンジニアメンター室の支援があるとはいえ、発表者に負担がかかることは事実です。そのため、発表者にもメリットがあるようにしたいです。

具体的には、発表時間内にディスカッションやフィードバック、質問の枠を設けることによって、現場のふりかえりのみでは得られない知見や気づきを得られるようにしたいです。

双方向性を持たせることによって、参加者の質問で発表者の暗黙知を引き出す狙いもあります。

参考にした理論

施策を考えるにあたっていくつか意識した理論があります。ばっちり当てはめながら考えたというよりも、思考の手がかり、心のよりどころにしたという位置づけです。

SECI モデル、SECI スパイラル

ナレッジマネジメント系の書籍には必ずといっていいほど登場しますね。私は今回、主に共同化から表出化にかけてのところを意識しています。組織でサイクルをぐるぐる回すための役割を担えたらいいなと思います。

書籍「ワイズカンパニー」では、形式知、暗黙知だけでなく、実践知という言葉も登場します。P39では「実践知とは、経験によって培われる暗黙知」と説明されています。まさに、現場から掘り出したいタイプの知識です。

ALACT モデル

数年前に書籍「リフレクション入門」で知った、教育現場でのモデルです。

ALACT モデル(書籍「リフレクション入門」P16 図表 1.2.2 をもとに作図)

ALACT モデルは組織ではなく個人の学習のフォーカスしているものだと私は解釈しています。この中の「3. 本質的な諸相への気づき」までを発表者が行い、「4. 行為の選択肢の拡大」も発表者が行い、そして参加者に展開することをイメージしています。

なお、ALACT モデルは「経験学習モデル」を参照しながら描かれたそうです。経験学習モデルは馴染がある方は多いのではないでしょうか。

他にも、教師教育の書籍で出会って気になったのは以下の言葉です。解説する自信がないのでキーワードだけ並べます。

  • 大文字の理論(Theory)、小文字の理論(theory)

  • 学問知(エピステーメー)、実践知(フロネーシス)

  • リアリスティック・アプローチ

  • 往還アプローチ

私が置かれている背景と異なるので、ぴったり当てはめるのも無理があると思います。総じて、教科書的な知識と泥臭い知識があって、どちらも必要で、その間を行き来することが重要だとふんわり解釈しています。

ところで「ふりかえり」って英語でいうと?

ところで「ふりかえり」という言葉は、状況によってレトロスペクティブ寄りだったり、リフレクション寄りだったり、ニュアンスが異なる気がします。

今回考えていることは、ALACT モデル的にはリフレクションの方かなと思います。教師教育に関する書籍を読むと「省察」という言葉がよく出てきました。似た言葉って結構ありますね。

まとめ

現場に埋もれている実践的な知識を、全社の学びに繋げるために取り組んでいることをお伝えしました。

同じ切り口でも別の方法、または別の切り口も色々あると思いますが、お試しの気持ちでやってみて反応を見ていきます。

参考書籍

再読を含め、最近読んでとても役に立った書籍です。


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